日本医師会医療情報システム協議会というものに参加してきました。
電子カルテの未来
WHOに、日本の医療は世界一だと言われていた時期があるのは事実だとは思うが、今はどうだろうか?
日本が技術大国であったのは 90年代までで、今では家電などは韓国・中国の後塵を排している。
情報システムなどについてはどうだろう。
世界を見渡してみると、例えばエストニアは全国的に電子化が非常に進んでいる。
投票、確定申告、ほとんどのお役所手続きがコンピュータ上でできるし、当然医療情報についても、統一したインフラにのって、効率的に運用されている。*1
日本は、電子カルテの登場は結構早かったものの、むしろそれが足をひっぱって、全国的なシステムの統一が進まない。
複数のベンダーが入り乱れ、シェアをとりあっている状況は、非効率の極みではある。
中途半端に電子カルテが普及しているのも、状況を悪くしている。むしろ一から統一したシステムを入れる方が効率がいいだろう。*2
下手をしたらラオスやカンボジア、ミャンマーなどの経済規模でも、今後統一化された情報システムが整備されるだろうから*3、そうなると日本は医療情報システムの効率性については世界で下から数えたほうが早くなる時代がくるかもしれない。
* * *
日本の状況を輔弼するために、電子カルテとは別に、医療機関同士をつなぐグループウェアが県医師会レベルなどで作られているが、これも、全国で統一したものを作ればいいのではないかと思う。これも無駄が多いわりに、実効性が低い。グループウェア、あまり便利ではない。
こうした状況こそが日本の「失われたnx10年」の正体なんだろうな。
実際今のグループウェアの延長線上に理想とすべき、統一された電子化された医療システムに至るかといわれると、難しいのではないかと思う。
* * *
以前に「電子カルテの手切れ金」というのを書きました。
hanjukudoctor.hatenablog.com
電子カルテというのは、言ってしまえばただのリレーショナルデータベースの集合体だ。
ただ、結局医療者側のニーズを知ってか知らずか、電子カルテは、効率的な情報のアウトプットができない仕様になっている*4。
最低限、限定された情報を吸い出すことはできるが、電子カルテそのものに、他所から情報を入れるインポート機能がない。
個々の診療録ベースでいえば、スキャンした診療情報提供書とか、CD-ROMから読み込んだ画像データなどはインポートできるが、テキストのインプットはできない。
電子カルテにテキストデータを入れるには、電子カルテにタイピングしていれるしかないのだ。現状。
なんか、偉い人達は、薬剤情報とか、画像データベースとか、採血データとかばかり気にするけど、本当に共有・統一化したいのは、データそのものであり、白文のカルテ本文だ。
逆に、それができないから、カルテの書き方の標準化もすすまない。
もし、自分が書いた患者のプロブレムリストとレビューが、どこの病院でも診療の下地になるのであれば、みんなもっと注意して、そして統一化した書き方でカルテ記載を行うはずだ。
電子カルテ以前の世代の先生方は、もちろん個人差はあるが、基本的にはカルテ記載が少ない。
手書きだと、多くの患者さんを診る場合たくさん文字を書けないからね。
昔のカルテって、一部を除けば、単語の羅列だったり、文章の体をなしていない。*5
電子カルテのいいところは、コピペができること。
一度きっちりと患者評価を行えば、カルテ記載の質が全体にぐっと底上げできる。
開業医からの「達筆」な手書きの手紙は、そこから文字起こしをするしかない。幸い文字数は少ないのだ。達筆の手紙などは。
だが、A病院もB病院も電子カルテを使っているのであれば、カルテ本文のやりとりができると、実は業務は相当効率化するだろう。
でもそれが今の電子カルテでは、できない。
これでは効率のよい業務など夢のまた夢だ。
* * *
なんとなく、希望すべき未来像はわかっているのだ。
どの病院でも同じような電子カルテを使っていて、他の病院での診療行為も、シームレスに見ることができる。
開業医も、基幹病院の専門医も、同じシステムの中でやりとりをすれば、非効率なこともずいぶん減るのではないかと思う。
普段診ている先生の情報を踏まえた上で、カルテを書くことができれば、病院の勤務医(Hospitalist)の負担はずっと減るのではないか。
ただ、今の日本の現状から、その完成形にもっていくには、どうしたらいいのか、ちょっとわからない。
パレスチナ問題のように、利害関係も積算された過去のいきさつも、錯綜しすぎている。
つづく。
その他のBlogの更新:
半熟三昧:
Kenny Drew ”Undercurrent” - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『明治〆(シメ)のヨーグルト』明治 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『台湾とは何か』野嶋剛 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
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『人生やらなくていいリスト』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
小ネタ集 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
論語と算盤と私 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
Suchimos "Ashtray" - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『論語と算盤と私』『台湾とは何か』、がオススメ度高いかとは思いました。
ジャズブログ:
ピッチの話 その1 ピッチの意味論 - 半熟ドクターのジャズブログ
ピッチの話 その2―ロン・カーター。音程の多義性。 - 半熟ドクターのジャズブログ
ピッチの話 その3 場末での話 - 半熟ドクターのジャズブログ
これも以前に起こしたテキスト。Facebook上では松山在住のベーシスト高橋さんに、有意義な意見をいただきました。
*2:ただしそれには1兆円以上余分にお金がかかるだろうし、電子カルテからデータを吐き出させるのが難しいと思う
*3:一から整備するなら、中国かシンガポールのシステムが安価に供与されるという可能性は、高いと思う
*4:電子カルテのベンダーが言うのは「セキュリティ」であるが情報を抱えるだけ抱えて、エクスポートの手段しかないという状況は、セキュリティ以前の話だと思う
*5:非医療者の人に「カルテってドイツ語なんですってね…」とか言われることあるけど、昔のドイツ語のカルテで、ドイツ語文法まできっちり記載されているようなものって多分レアだと思う。「オレ 腹減った めし 食う」みたいな、単語の羅列やで。全然すごいことあらへん。