初めて参加する人に向けて
前回は旅程をダラダラ書き連ねてみた。
読むだけでも長々しく恐縮だが、読むことで100kmウォークの冗長さを追体験していただきたかったからである(強弁)。
今回は100kmウォーク体験を総括してみようと思う。
とはいえ私など、参加も二回目、今回初めてウルトラウォーキングに成功した程度のウルトラウォーク界のひよっこである。
ウルトラウォーク勢は全国に数千人いると思われるが、その廃ウォーク勢の人たちは、日々スタイルの洗練に余念がないはずだ。
ただ、そういうベテランのアドバイスは、「ちょっとやってみたい」勢には響かないかもしれない。
だから初心者の私の体験とふりかえりを書いておく。
初めてエントリーする人向けには参考にしてみてください。
前回も書いたが、大きな休憩もとらず100キロを一気に歩くウルトラウォークスタイルは、生理的でもない。
かなり特殊なスタイルであり、だからこその危険な魅力に満ち満ちているのだとは思う。
靴:
100kmウォークの要諦は、半分以上靴にあるといっても過言ではない。
20-30kmを歩いても足の皮膚へのトラブルはあまり起きない。(むしろその時点でトラブルが起きるなら靴が根本的に合っていない可能性が高い)
しかし50kmを超えると皮膚へのトラブルが生じ始める。つまり靴内のトラブルはウルトラウォークならではの現象であると言えるわけだ。
対策の基本原則は、
- 足をドライに保つ。蒸れた部分は水膨れやマメになりやすいから
- 靴と足の接触圧の強い部分は皮膚が痛み、水膨れになる
- 反対に隙間がありあそびの強い部分では皮膚が繰り返し摩擦され水膨れの原因になる。
- 靴底は柔らかいものをおすすめする
とにかく、靴はフィットしていればトラブルのリスクを間違いなく下げると思う。
私は9月は普段履いているHOKA Bondai 8で参加した。
これはやや母趾球のあたりがゆったりしてて靴内にあそびがあるために皮膚が水膨れでベロリと剥がれてしまった。
それを反省しHOKA Skyflowを試してちょっと良さそうだったので11月はそれで参加。
これは割に足の形にあっており、テーピングも併用し、水膨れは最小限で済んだ。
圧が高い場所、低い場所の濃淡はどうしても存在するはずだ。
50kmを超えると皮膚のトラブルが出現すると先ほど述べたが、20-30kmでも、前兆というか、圧が強い部分の軽い痛みや発赤は生じる。その場所は要注意な箇所。
その部位をマークしてテーピングを行うべき。
テーピングの方法はWeb上にたくさん載っているのでぜひ調べてみてほしい。
とにかく、自分の足の皮膚に関する解像度を上げることだ。
私は厚底で有名なHOKAを通常も愛用しており、これはウルトラに向いていると思う。*2
100km歩くのは足底のアーチに相当の負荷をかけるので、底の硬いシューズはアーチの痛みでギブアップする可能性もあるかもしれない。
これもウォーカー勢の常識だが、足をむらさないためには、5本指ソックスがよいらしい。
私は9月はイトイエックスの和紙製5本指ソックスを用いた。確かにドライに保てるメリットを感じたが、繊維がやや硬く、摩擦が生じるとむしろデメリットが大きい(私は足裏の水膨れにつながった)。11月はInjinjiのウールの5本指ソックスにした。
これはインナーソックスでその上に普通の薄手のソックスを履いて二重ソックスにするスタイルになる。
今回雨が降ったが、二重ソックスなのが良かった。表は濡れつつも奥のソックスは少しましな状態であったから。ただ、蒸れやすい夏場は逆の結果になる可能性はある。
Gore-Texの靴は意外におすすめできないと思う。雨濡れは避けられるが、靴中の足の蒸れが問題となる。
Gore-Texは確かに透湿性はあるが、そうはいっても水が外に排出するまではどうしても蒸れる。
そのほんのりした蒸れは足の皮膚を柔らかくするのには十分で、水膨れの元凶になると思う。
レインカバーも同様の理由でおすすめできなさそうだ(蒸れはゴアよりもさらにひどいはず)
雨降り対策は、1: 替えの靴下はしっかりもっておくこと、2: とにかく内部をドライに保つことが必要。
だが、僕にはまだ定見がない。できれば雨の日は棄権したい、とさえ思っている*3
服:
9月は酷暑だった。反対に11月は秋で冷えが予想された。
9月は、昼間は熱中症対策で、短パン・半ズボン、夜はコンプレッションタイツと上には薄手のウィンドブレーカーだった。
暑さ対策としては成功したとは思うが短パンの時に股擦れを起こしてしまった。ので短パンの下に短いタイツを仕込むべきだったと思う。あとは氷水をコンビニで購入しては飲む/ぶっかけるの繰り返しが奏功したように思う。
11月は、反対に寒さ対策。
アクティブインサレーション+ベースレイヤー。
に加えてGore-Texのレインウェア(Arc'teryx Norvan)とサーマルウェア(Arc'teryx Atom Hoody)を用意した。
雨が降った時はレインウェアで防ぎ、エイドで寒い時はAtomを羽織る。また夜の一番寒い時期はレインウェアの下にAtom Hoodyを着て対応した。
下半身は North Faceのパンツと、下はCX-Wのコンプレッションタイツ。
服に関しては登山とかのレイヤリングの技法を応用できる。
暑い時は夏山登山、寒い時期は秋山登山に準じて用意すればいい。
ただ、トレランや登山に比べると自分の身体からの発熱はやや少なく、岩稜帯にくらべると風は強くない。ビバークする可能性もない。
だから思い切って一段階弱めて荷物を減らすのも有効なはずだ(山と同程度に万全にすると、装備は少し重くなる)。
ザック:
山歩きとかウォーキングでUL思想に触れていたので、携行品についてはある程度迷いなく準備できた。
9月にはあれもこれもと不安を打ち消すべく準備しすぎて、荷物が重くなりすぎて自滅した。
Arc'teryx Norvanで準備したのだが、荷物が入りきらなかったので、押し入れに眠っていたホグロフスの15Literを引っ張り出して使ったのだが、これはボトルの取り回しが悪く失敗だった。
その反省を生かし秋はPaagoWorksのRush 20literを用意して、これはとてもよかった。
ウェストポーチは用いないがKAMPARAのサコッシュを、カラビナでウェスト側に吊るして使用した。
唯一失敗したのは、トレッキングポール。
ヘリテージのめちゃ軽いポールを持って行ったんだけど、正直一本でよかったと思う。
しかしおまけにゴールで忘れて帰る始末。
ポールは一本でいい。
食べ物:
コンビニが多い街中では、食べ物をたくさん持ち歩く必要はない。
とはいえ、ハンガーノックは時に出現しうる。
塩味系と甘み系の補給は最低限持っていけばいい。
トレラン用のジェルもマグネシウム補給(こむらがえりにいい)に持っておこう。
あと、キレートレモンのむくみは、長時間歩行の時の手のむくみにかなり効く感じである。
コンビニで入手できる行動食としては、グミがいい。
まあコンビニには炭水化物は豊富に売っている。
筋力とマインド:
「百里の道は九十九里を半ばとすべし」という言葉がある。
これは極端だが、全行程を100kmとすると、75kmを半分、くらいに思っておいた方がいいかもしれない。
後半は前半にくらべてやはりきついと感じた。
もしかしたら、経験を積めばだんだん、疲労の点での中間地点がだんだん補正されるのかもしれない。
最初は75kmが半分、くらいの疲労感が、60km地点を半分と感じるようになる。
実測と同じく50kmを半分と感じて淡々と歩けるようになったら上級者なのかもしれない。
練習の必要性:
前述の靴のフィット具合をみるためにまずは30km程度歩いてみることをお勧めする。
30km歩けたら100km歩ける、と廃ウォーク勢にアドバイスいただいた。
確かにそうかもしれないから、30kmくらいは事前に歩くことをすすめる。
もちろん40-50km歩いてもいいし、ファストウォークで10km歩くとか、練習はするにこしたことはない。
眠気。
ゾンビ問題である。
どうしても夜半から明け方に眠気は訪れうる。
カフェイン飲料やカフェインタブレットなども推奨されるが、ダメな時はだめだ。
ゾンビのように速度を落として朦朧と歩き続けるか、それとも路傍で仮眠をとるかは個人のスタイルだと思う。
どっちにしろ「身体に悪い」と思える瞬間。
いずれにしろ眠気をどういなすかも、この競技の独自のポイントだとは思う。
ペース
11月の完歩の時は基本的には巡航速度5kmと漠然と見積もり、多くの区間では時速5km弱を維持できたが、
結果的には25時間22分。平均時速としてはならして4km程度。
休憩の時間や、疲れや眠気で速度が落ちる区間はかならずある。
ので時速4kmで休みなし、という雑なシミュレーションだと結構厳しいと思う。練習をするなら時速4.5km、5km、可能であれば6kmで歩いて巡航速度を慣らすのがよいかもしれない。
意義
結局のところ、ウルトラウォークはどうなんだろう。
身体にいいか悪いかでいうと、多分ちょっと悪い。
夜を徹して歩くというのは正気の沙汰ではない。それにこれだけの長時間運動を続けていると、筋肉の自己消化が始まるらしく、筋肉量も減ってしまうそうだ*4
また、多くの人が痛みを和らげるために解熱鎮痛剤を使うらしい。それもだいぶ身体に悪い気がする。*5
一方、ゴールした時の達成感、脳内麻薬、自己肯定感などは、多分他にはかえがたいもの。
なかなか普通の生活では味わえない体験ではある。興味があれば、軽い気持ちで応募してみるといかがでしょうか。
ウォーキングのイベントは案外多い。
まずは地元のイベントや、普段何でもなく車で移動する道を歩いてみるのはいかがでしょうか。