半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

訪問診療のAI文字起こし時代に必要なのは「落語的しゃべり」かもしれない

2026年, 佐賀

衆議院解散。冬の選挙かー。
しかし私が在住している選挙区は、保守王国なので番狂せはおこりにくいのです。
いや、前回あんなこと書いたけど、今回何十年ぶりかの診療報酬プラス改定+補正予算
医療従事者としては高市政権には足向けて寝られへんで。

とはいえ、情報がすべて有権者に明かされていないところに、若干のフラストレーションを感じます。
多分今の時期に解散をうつのだって、僕たちが知り得ないいろんな事情があってのことだろうし、きっとそれはあからさまにアピールできないことなんでしょうけど。

医療の効率化

医療DXと言われて久しい昨今ですが、先進的な医療機関では容赦なく効率化は進んでいます。*1
DX、効率化の第一歩としてはAIによる自動文字起こし(文書入力の省力化)が当たり前になりつつあります。
この辺は一般のビジネス現場と変わらないと思う。*2

診療記録を自動で作ってくれるのは便利ですが、実際に使ってみると、精度を決めるのはAI性能より「話し方」に左右される。早口、曖昧な主語、省略だらけの会話、滑舌の悪さがあると、文字認識がうまくいかないこともしばしば。

そもそも文字起こしに対応するためには、文字起こしに適した喋り方にアジャストする必要がある。
文字起こしを前提にしゃべる必要がある。

「じゃあそれで」「いつものやつ」「前と同じで」といった省略表現は、人間同士では通じても、AIには難しい。
逆に「今日は食欲が落ちている」「夜間の呼吸が少し苦しい」「昨日から足のむくみが強い」と、主語と状態を明示して話すと、記録の質は一気に上がったりするわけです。

じゃあ、その理想、というのを追求した果ては
………実は、落語の喋りになるんじゃないか?

ちょっとやってみましょう。

……しかしなんだね。今日は天気がいいやね。2月っていうのに、日がさしているところは、もう春みたいじゃないか。
そうこう言っている間に、本日の二軒目、山田さんちにつきました。
アパートの206号だね。
おや猫だ。
やだねえ、お前にあげるちゅ〜るなんて無いよ!
  え?看護師さん、もってる?
  じゃあ往診の帰りにあげとくれよ。今はだめだよ。
……階段を上がって右に曲がって、ほら206号だ。
おい、山田のご隠居! お邪魔するよ。
今日はあったかいけど、腰はどうだい?
ちょいと食が細いみあいだね。配食の弁当、半分も食べられてないじゃないか。

熱は……出てない、36.7度。血圧はどうかい……132の74、脈も78だね。
拍はきれいに打ってる。
呼吸は落ち着いてるね。……あ?そう?夜は少し息苦しいんだね。歩くと息がきれるかい?
足のむくみは……っと。
昨日よりちょいと強いね。右は靴下のゴム跡が目立つね。
ちょっと音を聞かせてもらうよ……肺は澄んでる、ラ音もないね。心臓も雑音なし。
……薬は……ちゃんと飲めてる。利尿薬も飲んでるね。

……うん。わかった。大きくはかわりないみたいだね。今日は無理せず現状維持で様子をみましょう。
食事量がもう一段落ちるとか、むくみが強いなら、すぐ連絡くださいよ。
また、ご家族を呼んでおいてくれないかい?今後のことも話しておかなきゃなんねえなあ。

カルテ記事
S) 食欲はやや乏しい。夜は息苦しい
O) BT 36.7℃ BP 132/74mmHg 78bpm 整 Raleなし、心雑音なし
 下腿浮腫あり 服薬良好
A) 心不全あるも増悪なさそう
P) 現状で経過観察

てな感じでしょうか。いま、落語っぽい感じに、ずいぶん寄せて想定してみました。

文字起こしがない時代の往診は第三者にむけて話しているわけではないので、そんなにしゃべらないはず。余計なことは言わない。
実際にこんな感じで実況しながらぶつぶつ歩いていたら、完全にやばいやつ。
でも「誰もいないのに、誰かに向けて喋っている」というのが文字起こしの正しいモードですから。

落語は、登場人物の会話や状況、会話や行動のすべてが聴衆に対して言葉で構造化されているわけです。一人芝居でパントマイムもあるけど、誰が何をして、何が起きて、どう感じたかが、言語だけで伝わる設計になっている。
これが文字起こしAIにとっては、非常に伝わりやすい。

AI時代の診療コミュニケーションは、機械に合わせるというより、「構造化された日本語」に戻ることかもしれません。
効率化の先にあるのは無機質な会話ではなく、むしろ語りの技術の復権

プライマリ・ケア連合学会では、「落研」や落語家による初等教育のセッションなんか設けたら盛り上がるんじゃないだろうか。

訪問診療は、医療と物語が交差する現場です。
ナラティブに磨きをかけることをつきつめてゆくと、日本の伝統芸能である落語や講談師みたいなスキルを21世紀に活かせるのかもしれないなー、と思ったりした。
知らんけど。

*1:その一方、未だ紙カルテの医療機関も一定数いるわけで、その辺の乖離でも商売が成り立っているのはすごいなーと思ったりします

*2:私はまだプラウドには心理的抵抗があるのですが