半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

「欲」と向き合う

2023年、大野城

最近「ダンジョン飯」が大団円を迎えた。

諸事情で食料を買うお金がない冒険者が、ダンジョンの中の倒したモンスターを調理するという破天荒な導入部であったが、バラエティに富み魅力的なキャラクター、しっかりとした世界観。笑いあり、シリアスさありのプロッティングで、物語にも惹き込まれるし、いろいろ考えさせられたよい作品でした。

ネタバレになってしまうのであまり詳しくは言えないのだが、物語の中で「お前の望みはなんだ?」という問いかけがある*1。これでストーリーは大きく転回してゆくわけだが、
改めて、僕自身の欲、ってなんだろなと考えさせられたのだ。

経営者にとって「欲」って大事

会社*2の経営に、一番必要なのは何か?
頭脳かもしれないし、統率力かもしれない。
交渉する力かもしれないし、意思の力かもしれない。
こういう「能力」こそが経営者に必要な資質だと、自分も思っていた。
  のだが、案外経営者自身の「欲」が重要なファクターかもしれない、と最近考えるのだ。

「欲」は、普通に考えると「能力」ではない。
一個人として生きていくのであれば、むしろデメリットといってもいい。*3
でも、こと経営ということになってくると、デメリットではなく、むしろ必須でさえあるかもしれない。

もちろん、欲というのはいろいろで、物欲や金銭欲という即物的な欲もあるけれども、
もうちょっと高潔な社会課題解決への欲望とか、名誉欲とか、ビジョンの実現のような欲もある。
それもひっくるめての「欲」ということになる。

自分の「欲」

困ったことに、今の自分には、この「欲」が少し欠けている。
2016年に父から医療法人の理事長を引き継ぎ、気がつくと8年たった。
幸い経営の財務状況としては安定している。
もちろん、細かいことを言えば当然課題はあるが、ただ、まあこれで「合格点」かな、なんて気を抜いてしまっている自分がいるのだ。

2022年度はひどかった。
きちんと働ける医師が減員し*4、個人的には医師のキャリア史上最高に忙しかった。
時間外の残業こそしなかったものの、労働時間内はずっと気の休まらない状況だった。
2023年度に入り幸い医師は増員できて、個人としての仕事量は減らせて、余裕をもって仕事ができるようになった。

だが、では、一息ついて経営的なブランディングとか何か新しい取り組みをやろう、とはならず、
だらだら本を読んだり、Youtubeとかアマプラみて、アウトプットしようにもやる気が起こらない状態が続いた。
今にして思えば、どうやら、バーンアウトしていたんだと思う*5

理事長に就任した当初は、かなり自分の性格に合わないようなこともやった。
むりして「赤レンジャー」たろうと努力した。
でも、本来の自分は孤独を好む隠者気質なのである。
医師の業務にも忙殺されて、ここ最近は「とにかく俺の邪魔をしないでくれ」(トラブルを起こさないくれ)みたいなマインドになってしまっていた。
これってあんまりよくない。
多分、かなりよくない。

トラブルを起こさないでほしい、なんていうのは会社を成長・拡大させるタイプの「欲」ではないのだ。
「任期中を大過なく……」というのはサラリーマン社長じゃないか。
きちんと制度を作ってまるで精密な機械のように組織が運営される、なんてのは、乱世には向かないし、中小企業のありようでもない。
現代はVUCAの時代。医療業界も、乱世といいますか、舵取りの難しい局面に入るのに。

「欲」。
満たされない思いを、満たすように努力する。
それによって、現在のありように変化を与える。

市井の人、一家庭人としては、強欲は害でしかない。
七つの大罪」てありますやん。
虚栄・嫉妬・倦怠・怒り・強欲・貪食・淫蕩。
人として「コレはアカン」というやつ。

ところが、こと経営者に関しては、欲が推進力として必須である、のは面白い。

欲は会社の駆動力であり、会社の規模は、その経営者の欲(もうちょっと上品に言えばビジョン)で決まる。

強欲な社長。
同僚を傷つけるかもしれないが、会社そのものは成長させることができる。
ジョブズとかがいい例。
経営者としては卓越しているけれど、とてもじゃないが同僚として一緒に働きたくはない「いやな奴」ではあった。
でも、逆に同僚にあたりがよくて搾取もしないいい人だけど、会社は先細り、もダメでしょ。

要するに、会社の成長のためには、強欲を取り入れ、なおかつ人として破綻しないようにそれを適切にコントロールしないといけない。

しかし50を目前に迎えた僕は、もう若くはない。
目先の欲がどんどん希薄になっている。
衣食住についてもどんどん恬淡になっている。
なんなら山を歩いていて疲労の果てに飲む一杯の水が極上にうまい、みたいな感じになっているのだ。
これじゃあなあ…

清貧ではだめなのだ。会社に変革を起こすなら、欲望をも取り込まないといけない。
たとえそれが、毒であったとしても。

こういうマインドが必要ではないかと思っているのだが、でも、
それを取り入れて適切にコントロールできる自信もない。

まあ、この前書いた「盛和塾」っていうのはそういう個人と「欲」をうまく切り離し、
「いやな人」にならず、欲を昇華する装置としてはよくできているのかもしれない、とは思う。

それにしても「欲」なんて学校でも教わったことなかったよ。
頭を良くする、ことが、努力したって一筋縄ではいかないのと同じくらいかそれ以上に、欲の量を増やすのも、努力してできるものではないよね。

*1:言うまでもなくこういうことを言ってくるのは悪魔で、いわゆる「悪魔の取引」ってやつ

*2:うちは医療法人ではあるが

*3:七つの大罪」ってありますやん。

*4:ここは言いたいが言えないことが沢山あった

*5:最近は山歩きなどをして自分を取り戻し、メンタルとしては少し回復している