半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

軍人皇帝と貴族皇帝の話

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「不自由さ」の心象風景。
いい車に乗りたい、と思う。

* * *

少し前のことだが、消費税もアップするということで、車を買うことにした。
ただ、納車は10月なんだって。

* * *

控えめにいっても、医者は平均収入が高い職業だ。*1
経営に携わらない専門職で年収1000万を超えることって、そうはない。*2
だからか、いい車に乗っている人も多い。

ただ医師の中での収入の多寡と、高級車・外車に乗っている比率は、意外に相関しない。
大きな病院の勤務医の先生の車は、研修医から部長、院長クラスまで過去見てきたが、研修医でもポルシェに乗っている人もいるし、部長以上でも普通の車の人もいる。

開業医になると原則として所得は上がる。*3
しかし、皆が皆、乗っている車をグレードアップさせるかというと、そうでもない。
もちろん「ハデな車」が好きな人は、グレードアップするみたいだ。*4

まあしかし、医師の車について言えば、現在の収入よりもその人の生活の「ハデさ」に起因するように思える。
車にこだわらない、自分の生活を華美にしない人は、収入が増えようとあまり変わらない。

* * *

これは車に限った話ではない。
基本的な生活レベル、つまり衣食住に関してもレベルが高い先生と低い先生がいる。

「医師たるものこれくらいは」と思っているのか、ブランドものに身をまとい、車・時計も高級車。
いざ旅行にいくときはいいホテルでないといけない、という先生もいる。
衣食住のレベルに関して、レベル以下を良しとはしない人もいる。
そうかといえば、全く頓着のない人もいる。

大学勤務で薄給でも、実家が太い場合は、高い生活レベルを維持している。
結局、その人の育ってきた環境とかなんやかやで、生活レベルは決まる。

* * *

僕は、というと、車に関しては、まず頓着がない。
正直にいうと僕はあんまり運転がうまくない。
運転も好きじゃない。
理事長とかだし、安全性を重視してそれなりの車には乗ってはいる。
それ以上のもの、例えばベンツ・BMWアウディという車は、今後も乗らないんじゃないのかなあと思う。
もちろん、フェラーリ・ポルシェなんぞ、もってのほかだ。

衣食住のレベルも、あまりこだわりがない。

もちろんそこそこの収入だから、全身ユニクロとかはさすがにいかがなものかと思う。
が、ファッションのテイストとしては、ユニクロ無印良品の上位互換のノームコアファッションである。
家は僕には過ぎた家に住んでいるけれど、床で寝ているくらいだからな。

* * *

多分、こういう違いって、生育環境に規定されるのだろうけど、もう一つは、自分が所属しているコミュニティが医師同士の中に限られているのか、それともコメディカルも含む一般人平均の中に開かれているか、で違うのではないかと思う。

医師は基本的に狭い世界で生きている。
医学部も、医学部医学科の中だけで完結しているし、部活も医学部限定の部活に所属している。
基本的に医師もしくは医学生以外と交わることが少ない。
そういう医者業界のコミュニティで、過ごそうと思えば過ごせる。
国立であろうが、私立であろうが、開業医の医師の子弟も多いから、生育環境の衣食住のレベルが高い人も多いし。

就職してからも、医師同士で飲みに行ったり、昼間も医局で同僚の医師としか接していないような状況は簡単に作り出すことができる。
コミュニケーションのほとんどを医師としか取らない場合、自分の生活レベルは同職種の医師としか比較しないことになるだろう。
奥様方も、子供を私立に入れていると、まあまあハイソなコミュニティに身を置くことになるだろうし。

そういう生活であれば、研修医になった時点でも、外車を買ったりすることに躊躇がないんじゃないのかなあと思うし、逆に知人との交流において、衣食住でも「これくらいじゃなきゃ」という上方圧力が働くのかもしれない。

* * *

私は開業医の子弟で、それなりに裕福な中で育った。

ただ、中学高校は親元を離れて神戸の進学校に下宿して通った。
木造4畳半がしっくり馴染む生活。
大学では、医学部の部活には属さず、全学部生向けの部活(ジャズ研)に所属したりしていた。

そういうわけなので、実は医師のコミュニティ、もしくは医師以外のハイソなコミュニティにどっぷり浸かった経験も乏しい。

だから、医師のコミュニティが、実は苦手でもあるのだ。*5

ただ、ハードな勤務医の生活は、QOLが著しく低いので、生活レベルの許容範囲の閾値が低いことは、暮らしやすかったと思う。
セレブ感がないことは、僕にとってはよかった。
基礎生活レベルが高い人は大変だと思う。僕なんて、炊きたてのごはんがあったら全然暮らしていけるもの。

* * *

話はいきなり歴史に飛ぶのだけれど、共和制から帝政ローマの時代、さまざまな執政官や皇帝がいた。
貴族階級出身も皇帝もいたし、特に五賢帝以降は軍人出身の皇帝も多数現れている。

ただ、本人の生活の豪勢さと出自の階級は別に相関しない。
貴族の出身であったとしても、軍隊で遠征し、一兵卒と同じ宿営地で露営するのも厭わない皇帝もいたし、
軍人出身の皇帝であるが、平民を寄せ付けない宮殿に住み、戦争には全く行かないか、行ったとしてもオリエント君主のように華美な帷幕で一兵卒と交わらない皇帝もいた。

どちらがいいとも言えないが、統治能力が同じであるならば、マルクス・アウレリウス帝のように軍隊に随行して露営も辞さないタイプの方が人気は得やすいとは思う。*6

* * *

これを実践しているのが、もう解散が決まったが、京セラ稲盛和夫さんの経営哲学を実践する「盛和塾」だ。
盛和塾では、経営者というのは、自分の力でその地位に居るのではなく、「使命」を果たすために選ばれた存在である、と考える。
だから、華美な生活も、経営者としての本質を鈍らせるので、ご法度だ。

以前盛和塾にも参加されている介護シューズを作っている会社の社長が、
「でも、クラウンには乗りたかったぁ……」と絞り出すように言っていたのが印象的だった。
社員と一体の経営、盛和塾の理想とする経営では、経営陣も清廉であることが当たり前なのだ。

盛和塾には入らなかったが、盛和塾の教えは学生の頃から知っていたので、はやくから触れていた影響も大きいと思う。

* * *

僕はどちらかというと盛和塾ほどの純度はないけれど、
職員と同じ目線で「一緒に働く経営者」というスタイルでやってきている。
超然とした権威をもってみんなを動かすタイプでもないし、自分の部下にも、部下に偉そうに接するスタイルはとってほしくない。

盛和塾はどちらかというと古き良き日本の経営者の道であるが、これは、現代であるからこそさらに意味あいは重い。
「サーバント・リーダーシップ」という言葉もあるからだ。

だけど、もうちょっと小さい開業医のクリニックの先生が、経営者は経営者、雇い人は使用人、みたいな感じで、余剰利益を全部個人の所得*7にして、クリニックでは王様、衣食住の生活レベルもすげーハイレベル、みたいなのを見ると、やっぱり羨ましくも思うのだ。
いい車のりてーなー。マセラッティとか。

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『まどろみバーメイド』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
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『あり金は全部使え』堀江貴文 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
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漫画率高いな!笑。
ホリエモンの本は相変わらず刺激にはなる。扇情的なタイトルだが、書いてあることはまとも。
それから熱血漫画家藤田和日郎の『読者ハ読ムナ』。
 クリエイティブなことに関わる人は一読することをすすめる。思った以上にいいこと書いてあった。
僕アマチュアジャズマンだけど、それでもなるほどなーって思ったこと多かったもん。

*1:多分、今後落ちてくる可能性はある

*2:これに匹敵するものといえば、トレーダーとか金融関係くらいだろうか…

*3:さすがにこの辺は都市部ではないので、ツブクリ丸出しなのはみたことがない

*4:功なり名遂げた感があり、開業2〜3年でフェラーリを購入している人もいた。こういうわかりやすいのは嫌いではない。すがすがしいよね。

*5:そういえば女医、もしくは女子医学生とつきあったこともないな。

*6:だが、そういう平民感をだしつつも、統率能力や大局観が劣る場合は、やはり支持されることはない。どんなに皇帝然と振舞っていても施政そのものがよければ人はついてくる。

*7:税法上は法人にプールして経費枠が潤沢なのかもしれないが、意味は一緒だ