コロナ(COVID-19, SARS-CoV-2)、とりあえず波は去り、非常事態宣言は解除された。
まことに結構なことだ。
しかし、いわゆる自然災害がよくあるような終わりを迎えたわけではない。
というか、日本の場合、大都市を除いた多くの地域では始まってもいないとさえ思う。
いずれ、次の波はくるのかもしれない。
召集された兵士は一般に召集直後はあまり士気が高くないが、2〜3週目である程度慣れて戦力になってくる。
ただ、やはり戦時下の緊張や非日常で精神を病むので、2ヶ月以降は、士気も戦闘力もどんどん落ちてくる。
ようするに、張り詰めた状態は2ヶ月くらいで破綻してしまうのである。
だから兵站や補給がしっかりしているアメリカ軍では定期的に兵に休暇をとらせるし、そういう観点がなく、精神論で突っ切った日本軍は最終的に物量作戦に押し切られた。
その意味でも、この非常事態宣言の解除は、ちょうどいいタイミングだった。*1
* * *
日本は、様々な条件が重なり、想定以上の軽微な被害ですんだ。
専門家会議の見積もりや戦略もよかったし、市民一人一人の自主的な自粛というのも、濃淡はあれど素晴らしいものであった。
官僚機構は、現状の組織の限界の中で相当頑張ったと思う。
時事刻々と変わる情勢の中で、通常の日本で当然とされる意思決定をはるかに短縮することができた。
このような有事にはローマの独裁官(ディクタトール)のように、決裁権限を集約してトップダウンで決めるのが本来のやり方だ。
日本はこの手のトップダウン体制に歴史的にアレルギーがある。
安倍総理は演説が下手で、かゆいところに手は届かない答弁には隔靴掻痒感甚だしいが、独裁者ではない。
(国民の多くが侮りをこめた感情で眺めている人間を、独裁者とは呼ばない)*2
三月始めの学校の休校宣言は世論はむしろ批判的だった。フライング気味でさえあったが、が、結果的にはよかったと思う。
非常事態宣言も今でこそ「遅すぎる」と言われていたが、そこまでタイミングは遅くはなかった。
そもそもアウトカムである死者数が少ないので、結果オーライだったのだ。
大都市への「自衛隊の出動」というカードを残し、自主的な自粛までで事態を終息させることができたのはすごいことだと思う。
ただ、ここまでの成功はこれからの成功を保証しない。
まだ終わってもいないし、ここからがさらに難しい舵取りが要求されると思う。
しかし安倍政権どこまで保つのかね。
間違いないのは、この戦時下で政権交代することは、効率性を犠牲にする。
ピッチャーも交代したら直後に打ち込まれたりする。
次の首相が人格・能力的に安倍総理よりもはるかに優れていたとしても、政権交代による様々な人事の刷新から立ち上がりは、どうしてもスピードが鈍る。3ヶ月くらいはかかる。*3。
その意味では次の波がくる前に…おっと誰か来たようだ。
* * *
私は内科。コロナの治療施設じゃない街場の中小病院で、いわば「銃後の守り」というか閑散とした戦区の歩哨任務のようなものだった*4。しかし元同僚達は基幹病院で奮闘していたし、医師会は医師会でオンライン発熱外来や、PCR検査所を立てたり地域ぐるみでコロナと戦っていたと思う。
運動会は見学していたけどクラスが優勝したらお相伴にあずかって嬉しい、みたいな心情だ。
幸い自分の診ている患者さんにコロナに感染した人はいなかったけれど……
1:生活習慣病の人たちは大体体重が増えた。Stay Home!
2:80歳以上の方々はテレビのワイドショーに怯え、外出を不必要に控えすぎたために、下肢筋力を減らした。
3:中国市場の縮小で、自動車産業の下請けはラインがとまっていたりして、これからが大変そう……
4:アルコール依存症の方は、総じて酒量が増えていた。
5:喫煙者の方で喫煙をやめた人は、残念ながら5%もいなかった。
高齢者にとっては筋肉量が大事だ。
高齢者には「老後の財産は、年金や預金通帳も大事ですけど、本当に大事なのは筋肉やで〜」と以前から言っていた。
若い世代の、例えば飲食とかフリーランスの友人は資金を取り崩してこのステイホームを耐えたが、高齢者は自分の資産=筋肉をかなり取り崩した(乗り切れていない人も残念ながらでている)。
みんなテレビでコロナの惨禍をみているから、怖いんでしょうね。
我が街に人混みなんて大してない。
屋外で散歩などをして筋肉を維持してほしかったなあ、と思う。
テレビは不安を煽って視聴率を稼ぐが、不安は適切な方向にも不適切な方向にも視聴者を導く。
ステイホームが守られ感染の終息には、マスコミが不安を煽ったことも一助あるのは間違いない。
ただ、高齢者のサルコペニアは進行し、結果、健康寿命を削ったり、一部の易怒性の性格の人間に「自粛警察」などの口実を与えたりもした点では、罪が重いと思うが、まあこれも、震災の上空に飛ぶ報道のヘリみたいなもんで、抗う力など我々にはないのだ。
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『シンプルの正体』ディック・ブルーナーのデザイン - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『とにかく優位に立ちたい人を軽くかわすコツ』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『戦略人事のビジョン〜制度でしばるな、ストーリーを語れ』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『スタインウェイ戦争』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『はじめてのリーダー論』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
「スタインウェイ戦争」を除けば、職場の人間関係や組織論の話。
最近組織の人間関係で悩んでおるのです。