半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

パワハラ防止法 どうする?

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2020年 鞆の浦
あんまりニュースにもなっていないし、騒がれてもいないけど、来年度からパワハラ防止法が施行される。
corporate.vbest.jp

パワハラ防止法(厚生労働省の資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000527867.pdf

施行時期は未だはっきりしていないけれども、大企業においては2020年6月らしい。
もう待ったなしだ。

実際の業務に落とし込むのに、パワハラの定義や線引きなど、現場においては数々の「?」がとびかいつつのだろうと思う。
だが、数年経つと、当たり前のことになるのかなあと思う。男女雇用機会均等法のように。

しかしその歴史の立会人になるのは、人事担当および経営者としては、ストレスでしかないと思う。
文化の変遷に伴う摩擦の処理は、本当に消耗することだからだ。

医療とか介護の現場は、もっと複雑だ。
例えば、うちの職場は、まずまず男尊女卑的な考えは薄い。
年功序列的な考え方も、それほど強くはない。
職域同士のヒエラルキーも比較的緩やかではある(とはいえ、公平に言えば、基幹病院レベル程度だとは思う。ただ、中小病院および無床診療所の多くは、医師とそれ以外の階級差はかなり大きいことが普通だ)。*1
ところが、顧客のほとんどは、過去の世代の住人だ。
すなわちセクハラ、パワハラ、なんなら暴力も当たり前にあった時代。
女は男の言うことには逆らうな、年上の言うことに年下が逆らうなんて言語道断、なんてえ価値観。

結果として、医療現場においては、例えば男女、例えば年少と年長、などについて、さまざまな考え方が飛び交っている。
大正昭和のレベルから、平成から令和。日本人の考え方も随分変わったものだ。
企業としては、令和の考え方を基準にしたフラットでフランクな組織を作りたいが、もっとも尊重すべき顧客が、大正昭和のレベルに止まり、偏狭な自らの価値観に基づいた考え方をこちらにも強要しようとすることがある*2
そういう齟齬のもとでは、数々の悲劇が生じる。
せっかく働きやすい環境づくりに腐心しても、若いやる気のある職員が心無い高齢者の言動に心を折られたりすることもある。

* * *
halfboileddoc.hatenablog.com

私は、映画『八甲田山』が大好きで、DVD、Blu-Rayも持っていて自宅で時々みなおす。
あれは「軍隊もの」というカテゴリーというか「中間管理職悲哀物語」みたいなもので、
バカな上官にあっちいけこっちいけと指図される神田大尉(北大路欣也)の苦悩と愚かなトップの戦略で自滅する集団というのがストーリーの根幹となっている。指令系統の明確化とブレない戦略が大事、というマネジメントに関する物語なのだ。

ただ、現代の若者にあれをみせても、あんまりピンとこないみたいだ。

映画は1978年。劇中の舞台は1902年。
観劇していた当時昭和の社会人にとっては、この『八甲田山』の世界のありようは実際の会社組織と地続きなものだった。
パワハラというか、上官の命令は絶対で、当時の仕事のあり方も、そんなに変わらなかった。だから映画『八甲田山』は、ある種、実際の社会の縮図のようなリアリティは十分にあった。
ただ明治の軍隊では、上官の命令は絶対である上に、間違った上官の命令に従い、そのまま死んでしまっても文句は言えない。昭和の社会では、さすがに殺されることはなく、まあ辞める自由は残されてはいただろう*3
観客のサラリーマンにとっては、映画の舞台は、今と地続きではあるけれど、そのまま命を簡単に奪われうる。その酷薄さは観劇に足る非日常だったのだろう。
しかしあれから50年たった現代人にとって、劇中の明治の社会も、昭和の社会も、今のそれとはあまりに違いすぎて、もはや共感さえも得られにくくなり、ただの寓話めいたものとしか消費できない。
明治は言うにおよばず、昭和も遠くなりにけり。

* * *

昨年、一昨年では、昭和世代では、体罰と年長服従の象徴であった大学の運動部やプロスポーツ業界でさえも、パワハラという言葉にの名の下に数々の服従・盲従を強いる行為が明るみに出され断罪された。

確かに世の中は変わりつつあるのだろう。
ただ、世の中すべて開明的な人物ばかりではない。階級を登ってゆく人間の中には、階級意識に人一倍敏感で、その差を最大限に利用し、言動を最適化するような人間はいる。発揚型人格
の方は感情をコントロールできない、なんてこともよくある。

でも、とっさの一言で一生を棒に振る、なんてことが起こるのも、つらい。
昨今のITを駆使して、例えば、FitBitみたいな体活動計みたいなバンドは作れないか。
名付けて「パワハラ防止計」。
しゃべっている内容をすべて録音し、自然言語処理し、パワハラに該当しそうな暴言や侮辱語を発すると、バイブレーターで通知する。なんなら電流を流してもいい。なんならアナルパールに電流を流す仕様でもいい(笑)。

こういうのを付けて、不用意な言動を発する瞬間、または兆しがあれば警告を発して止めることができればいいんじゃないかと思う。

「どうしてこんな簡単なことができないんだ!!
  お前なんか死………はうううぅ!、いや、なんでもない……」*4

というか、自分の会話をすべて文字起こしして、統計処理や言語解析して、喋り方の論理性や抑揚、滑舌などをスコアリングするバンドは、10年後とかには実用化されているような気がする。隠キャ、発達障害の方などは、そういう補完技術があれば、普通の会話をきちんとすることができるだろう。

*1:以前はそうではなかったし、むしろブラック企業っぽい風土さえあった。

*2:なんとなれば彼らは尊重されるべき「年長者」であり、なおかつ尊重されるべき「顧客」でもあるわけだからね。

*3:過労死や不慮の事故死、自殺はありえるだろうが、しかし軍隊だと上官の命令で死ぬのは当たり前、昭和の平和社会ではさすがに、死ねという命令にはならない

*4:というかこの提案そのものがパワハラ的でもあるし、セクハラでもある。自家撞着じゃねえか