コロナウイルス(COVID-19, SARS-CoV-2)は、不気味なことにじわじわと増えるが爆発的流行にはならない。
このまま落ち着いてくれればいいが、まあそうもいかないだろう。
第二波にそなえて、厚生労働省のコロナのアプリも発表された。*1
原則多くの人がこのアプリを入れて適切に対応すれば、リスク管理がより柔軟なものになるのではないかとは思う。
まあ、やってみなければわからない。
ただ、感染者が県で数十人という非大都市地域では、コロナ感染地域第一号が判明した家は、近所づきあいの問題から、その地域にいられなくなって引っ越した人々もいるとかいないとかいう噂があるのは事実だ。
* * *
一旦は感染が収束したので、医療機関に入院していたCOVID-19の患者さんたち、おおかた退院できたみたいだ。
大都市はしらないけどね。
やっとわかってきた事実としては、コロナ感染の重症者の治療経過には、生き死にに関わらずかなり時間がかかることだ。
高度医療を提供するHCU/ICUというベッドは、それほど多く準備されているわけではない。
例えば救命救急センターとかでは多発外傷とかすごく難しい内科疾患であるとかそういう人を、こういう集中治療室で初療し、ある程度治療の目処がつくと、一般病床にうつる。疾患にもよるけれどもICUに連続して治療を受ける日数は数日、というのが原則だ。
ところが、コロナでは重症者はなかなかよくならない。とにかく時間がかかる。
ECMOも人工呼吸器も、数日で勝負がつかないようなのだ。
1〜2ヶ月HCU/ICUを占有しかねない。
これって、例えば普通の飲食店のトイレ。普通の店のトイレって1個か2個しかないことが多いけど、それでまあ普通は問題なく回っている。
でも、もしそこに、二時間完全にトイレを占有して出てこない人がいたらどうなるか?
他の人はそんなに長時間トイレを使いたいわけではないが、一人そういう人がいるだけで、漏らしちゃう人がでてくるかもしれない。
コロナによって起こる「医療崩壊」ってこういうことだ。
こうならないためには重症化への進展を防ぐ薬剤の開発が必要だが、それ以前の時点でも、ある一定期間が経ち、回復見込みのない人に対する治療の撤退が許されるなら、医療崩壊はしないだろう*2
この辺りは、本当に命の選別というか、いわゆるトロッコ問題(トロリー問題ともいう)なので、非常にデリケートな話だ。
* * *
ACP
そういう話になると、当然、アドバンスド・ケア・プランニングの話になる。
https://www.spmed.jp/14_kankei/opinion_pdf/02_op/opi_R0205.pdf
この札幌医師会の先生のオピニオンは非常に実際的な話で、僕も当初こう考えた。
しかし、実際に外来で話をしてみると、これは、今コロナという差し迫った死への恐怖があると、ACPにかなりバイアスがかかることがわかった。
80歳〜90歳の「あー僕はもう十分生きたから、これ以上しんどいことはいいよ」とかいう人は、これは延命しない、というACPの意思表示で、これは全く問題がない。
問題は、65歳から75歳くらいの方々。これくらいの方々は自分が高齢者であるという自覚は、かなり乏しい。
もしくは日常的に老いを糊塗しようとする努力でなんとか若さを保っているからか、高齢者扱いに対して微妙な反応を示す人は結構いる。
そういうくらいの年齢の人に、ACPをうながしても、はっきりいって「前熟考期」。
なんだかんだいって決断しない。なんならクレームを入れてきた人もいる。
で、今回コロナのこともありACPもうちょっとしっかりとろうかなと思ったけど、これって、遺産を狙っている若い世代が「お父さん、遺言状書いてくれませんか?」みたいな感じになってしまうのだ。
実際、「これ、延命しないって書いたら、コロナにかかっても集中治療とかしてくれないんでしょ?」と
そのものずばりのことを呟く人もいた。
ACPによる意思表示と、トリアージは全く別の事象として語る必要があるのではないかと思う。
65歳以上のすべての高齢者がACPを意思表示をすませていて、それにそって粛々と集中治療をすべき人をピックアップ、というのは多分無理だろう。あくまで、基礎疾患の有無や年齢、要介護度など、濃厚治療に対する反応性の可否から、生還人数が最大化されるようにクールに治療対象者を選ぶべきだと思う。
できれば、治療チームと、トリアージチームはわけて、高度医療を実際に行う医療スタッフには感情的なストレスが起こらないような仕組みが必要だ。
ただ、専門家会議に対する政府・官邸の扱いをみる限り、そんな美しい役割分担は望むべくもないのかもしれない。
いずれにしろ、外来で今までACPを説明していた僕は、コロナ禍が始まって、むしろ説明をやめざるを得ないな…と嘆息している。
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