半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

病院のバトルロワイヤルが始まった。

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9月26日、全国の医療機関を震撼させるニュースが走った。

www.nikkei.com

全国の公的病院の中で、近くに同等の科があるけど、症例の集積が悪い病院、救急やガン医療などの実績がやや悪い病院をスコアリングし、悪い方から424の病院がリストアップされ、厚生労働省によって公表されたのだ。

ま、はっきりいうと「お宅の病院、近隣の医療機関と整理統合した方がいいんとちゃいますのん?」
リストラ候補ということを、中央官庁が公表してしまったわけだ。

当然、該当する病院長は激怒。市・県の首長なども「これどうなっているの?」と病院に問い合わせをしたり、国会議員に陳情にに行ったり、裏ではたいそう愉快なドタバタ騒ぎが起こっているそうな。

* * *

事実、僕の知っている医療圏を見る限り、今現在において、即閉院・統廃合という必要性までは感じない。
ただ、事実として、リストアップされた病院の多くは、地域に燦然と輝く地域一番店ではない。*1

そして、これから日本の人口構造は急展開をむかえてゆく。
今まだ事業継続性があるように見えても、ここから急速に市場は冷え込んでゆく。
人口が減っていくのだから、当然のことだ。
 3-4年も経ては、今回のリストアップされた病院が、統廃合をしなければ立ち行かなくなる可能性は、かなり高い。
あのリストはかなり正確に未来予知をしていることは、多分誰の目にも明らかになると思う。

ただ、上手に近隣の医療機関と科の整理統合をし、整理統合をすれば、生き延びるチャンスは十分にある。
民間病院の僕らからしてみれば、こうやって名指しで「平均以下ですよ、今のままではだめですよ」という指摘をされることは、親切極まりないな厚生労働省、とさえ思う。ある種の叱咤激励だからね。

 だから今回の開示を受けて、とりうる行動は、
この客観的データをもとに、生き残りをかけてありとあらゆる知恵を総動員し、経営改善をすることだ。
激怒する時点で、その病院は、多分存続する資格はないと思う。
 そんなやつらは、どのみち閉院に追い込まれる。

どんなに頑張っても、今後3割くらいの病院がなくなることは折り込み済みだ。
どうせ無くなったって、患者もどんどん減ってゆくのだ。あんまり困らない。
(むしろ地域の医療機関を下手に残すと、市町村は財政のリスクを負うことになる)

* * *

 ただ、病院は、名指しで「君ダメだかんね」といわれたような風に受け取られてしまうわけで、風評被害レベルでは、結構大変なようだ。
 そういう病院の事務方と話す機会があったが、新人の採用活動は、軒並み向こうから断ってきたらしい。
 きっつー。
 生き残りをかけて人集めを頑張っている矢先に…とがっくりうなだれていた。

* * *

 実際に、病院同士がお互いに殺しあうバトルロワイヤルは起こるんだろうか?
 当地域でも、病床は2025年に向けて数百床レベルで過剰だと見積もられている。
 ただ、実際に公称のベッド数と、稼働していないベッド数は結構乖離がある。
 古い敷地の病院であれば、一病棟まるまる凍結している、なんていうのはザラにある。
 それに古い建屋で、既存耐震不適格建物も結構ある。
 こういうベッドを減らせば、数百床は、割と無理なくダウンできそうにも思うのだ。
 実際、最近は予想される収益と建築費との折り合いがつかないので、今病棟の建て替えを行うのは、かなり厳しい。特養も今建てても、大都市圏の周辺でなければ、ペイしない。


* * *

数字を鵜呑みにすると、とてつもなくつらい未来が待っているように思うけれども、
少し冷静になれば、マクロではそんな悲惨なことにはならないかもしれない。

 例えば、これから不動産が過剰となり、大空家時代が始まり、不動産の暴落が始まる…なんて言われているけれど、今回の台風でハザードマップ上にある建物は、今後もかなり災害リスクに晒されていることが明らかになった。そこの建物に住むことに対して、税制上不利な政策などをもうければ、ハザードリスクの低い建物のみが流通してゆく。
 結果それほど物件の持ち主が空家で困ることはなくなる、なんて事態もありうる。*2

 また、人口減少でえらいこっちゃえらいこっちゃって騒いでいる反面、別の方向からは、AIとかで仕事が無くなる、なんていうことも盛んに言われる。じゃあ、人は足りなくなるのか、余るのか、どっちなんだ。
 実は減少と不足でちょうどとんとん、そんなに悲観的になることもなかったよな。
みたいなこともあるだろう。
hanjukudoctor.hatenablog.com
以前にも書いたけど、人口減少社会で、荒れ果てた山河が、逆に中国や韓国からバイオエネルギー源として羨望の目で見られることだってあるかもしれないし。*3

まあどうせ、なるようにしかならん。

* * *

ちなみに、今回のリストアップには、実は、財務というか経営状態は加味されていない。
そこまでリスト化したらぐうの音もでないからなのかもしれないが、ヤバイ赤字公的病院の多くは補助金という形で地方自治体から資金が流れているので、B/S P/Lからは一見見分けがつかないからだと思われる。

*1:多くは地域一番病院があり、それに追いつこうと頑張っていたりする病院だったりする。でもまあ、時勢が悪くすごく努力して現状維持、とか。だからこそ腹立たしいのかもしれない

*2:もちろん、ハザードマップにある不動産の所有者は、建物の価値が著しく毀損され、物件所有者が激しく明暗をわけるのは事実だ。

*3:とはいえ、中国もインドも植林などの緑化事業で、緑はよみがえっているらしい。彼らは僕たちの失敗を他山の石にしているせいで、割と起こりうる事態を回避している。かしこいし、意思決定力がある。