日本の出生数が過去最低を記録した。
www.nikkei.com
私は1974年生まれの団塊ジュニア世代だ。
今年45になる(なった)。
人口動態でいえることは、団塊ジュニア世代はその人口規模にもかかわらず再生産のピークを作れなかったということだ。
ボリュームゾーンは40代に突入してしまい、私と同世代の女性たちはもはや出産することはできない。
ここ10年で、大きなチャンスは失われてしまった。
少子高齢化に悩む日本は、あろうことか見逃し三振をしてしまった。
ここから、妊娠可能な女性はぐっと少なくなる。
もし人口減少に一定の歯止めを作りたいのであれば、今までのような政策ではうまくいかないだろう。
社会常識そのものが変わる必要がある。三人、四人産むのが当たり前の世の中に変われば、チャンスはあるかもしれない。
……多分、変わらないと思う。
* * *
以前にこんなこと書きました。
hanjukudoctor.hatenablog.com
政策の世界では、少子高齢化対策は、わりに明確である。
カギは「婚外子」だ。
フランスは婚外子で成功している。
「婚外子」に対する社会保障を手厚くし結婚による出産との差をなくする。
結婚という高い高いハードルを超えて出産、ではなく、ハードルを下げて、産みやすくする。
同時に婚外子を政策的にも社会規範的にも当たり前のものとしないといけない。
現代日本では、その辺はなかなかうまくいっていない。
シングル・マザーの貧困率は高いし、養育費の未納に対する罰則がゆるゆるなせいで、逃げ得になっている。
そして、シングル・マザーに対する風当たりもまだまだ厳しい。
医療の世界では、女性の専門職が結構多いので、シングルマザーの比率は結構高い。
腹の据わった彼女たちは、よく働く。「母は強し」である。
* * *
婚外子が当たり前の世界がこないと、多分少子化は改善しない。
そのためには、世の中の「常識」が変わることが必要だった。
しかし、この10年、世の中の常識は変わらないどころか、「少子化」という点で言えば、ますます悪くなっていないだろうか?
そう『文春砲』である。
週刊文春がもっとも代表的であるが、マスコミによる過剰な不倫・女性問題のバッシング報道。
特にここ数年はその傾向がますます盛んであると思う。
不倫はいね〜が〜、悪い子いね〜が〜
と、まるで「スキャンダルなまはげ」だ。
閉塞した日本のストレスを反映してか、ここ10年ほどは、どちらかというと不倫などにおいて、より非寛容な文脈で報道がなされることが多い。
妬み・嫉みがベースになっているから、不倫などの、結婚以外の恋愛活動が過剰にバッシングされる。
マスコミ報道は、市井の道徳規範を反映して行われる。
さらに報道が市井の道徳規範の再強化にもつながっている。
これが悪循環を生んでいる。
結果、市井の人たちも「いい子」でいることが求められる。
不倫はなんとか隠せるかもしれない。しかし婚外子はバレるよな。
倫理警察が芸能人を血祭りにあげているなか、婚外子を作るなんていうのはもってのほか、という判断になる。
だから、婚外子は増えない。結果、出生数も増えない。
もし文春砲が吹き荒れなかったら、そして政府が婚外子優遇制度みたいなものを作っていたら、
例えば年間の出生数をもう数万人単位で押し上げることはできたかもしれないと思っている。
ただ、もう遅い。
最良のタイミングを、日本は失ってしまった。
* * *
『ミヤネ屋』こと宮根誠司の隠し子騒動が報道されたのが、2012年。
この時僕も含めて団塊ジュニアは30代後半だった。宮根氏は、あまり手ひどいバッシングを受けなかった。
僕はこの時、「あ?潮目がかわったのかな…?」なんて思っていたのだ。
この後、婚外子を政策面でも倫理面でも称揚していれば、もう少し自由な家族形態が許容され、子供が増えた、という世界線もありえたんじゃないかと、僕は思っている。
実際、ドラマや文学などでは、多様な家族形態を模索するような作品もいくつか見られた。
世間のコンセンサスが変わる可能性はゼロではなかったかと思う。
しかし、現実は全く逆に作用した。
ベッキー『ゲス不倫』が2016年。その後も大物のスキャンダルが文春によって暴かれ「文春砲」なんて言われていたのがここ数年。
この時団塊ジュニアは40代前半。
妊娠・出産の最後のチャンスだった最後の数年は、倫理的に逸脱を許さない雰囲気が横溢している(今もそうだ)。
こんな中では、普通の雇用者は、婚外子を作るという選択はなかなかできないだろう。
シングル・マザーが、貧困に陥る原因は、養育費の未払いや不十分な保障制度というのもあるけれど、そもそも婚外子を作るような男性が、どちらかというと社会の低層、もしくはアウトサイドにいるという現実もあると思う。
要するに養育費を払わないし、払おうと思っても払えない。
払えるような人は養育費を支払う以上のデメリットが大きいのでそもそも婚外子を作ろうとはしない。*1
* * *
「文春砲」は、文春「砲」というからには、何かを攻撃していたわけだ。
ではいったい何を攻撃していたのか。
日本の未来、ではなかったのだろうか、と僕は思う。
文春砲は亡国の引き金。
始まりの終わり。
もちろん、週刊文春だけが悪いわけではなくて、週刊文春のあり方に快哉を叫んだ、旧世代の倫理規範をもった旧世代の人たちすべてが、よってたかってそういう方向に手を貸した、ということになる。
そこには日本国の繁栄が失われつつあることへの苛立ちが反映されていたことは多分にあるだろう。
でもその倫理意識そのものが、日本を滅ぼす方向に作用している。
その事実は、僕たちは、忘れてはいけない。
僕たちは自ら明るい老後の可能性をせばめてしまったことを。*2
* * *
ちなみに、今調べて初めて知ったことなんですが、婚外子に対して支払う養育費は所得税の控除が認められるんですね。
知りませんでした。
高収入の男性は婚外子を作ることに対して、経済的にはそれなりに損はしないようになっているみたいです。
しかし、今の養育費の仕組みは、自由意思で払い、払ったら所得税控除があるという方式。
払わなかったら家裁とかから文書が行くけど、そこまでの強制力はない。
もう、税務署が監督して強制的に徴収するようにできないかと思う。
要するに払わない場合は重加算税を支払せる、くらいの勢いが必要だ。
養育費は逃げ得を許さない制度がいいと思う。
で、さらにちょっと進めて、ふるさと納税みたいに、俺の子じゃないけど、養育費の不足分を納税したら税控除受けられる、みたいな制度はどうか。
養育費が払えない親なんて結構いる。そういう人が本来支払うべき養育費の財源にするのだ。
払った記録は残してもらって、少子高齢化に貢献しました、みたいなんで、老後にちょっとだけインセンティブがほしい。それなら僕は払ってもいいと思う。
その他のBlogの更新:
半熟三昧:
『武器になる哲学』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『騎士団長殺し』村上春樹 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
[『スマホメモ』須藤亮 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『僕は僕の書いた小説を知らない』喜友名トト - 半熟三昧(本とか音楽とか)
『悪魔が教える願いが叶う毒と薬』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
「武器になる哲学」はい。年間ベスト入りでしょうね。
今更「騎士団長殺し」とか読んでしまいましたが、残念ながら今年もノーベル賞はならず。
詳しくはエントリを読んでほしいですが、今後、村上春樹が話題にでてきたら、「ノルウェイの森の」とかいわずに、
「えっあのジャングル通信の村上春樹が?」みたいに言おうと思います。
ジャズブログ:
第3回福山ジャズ検定 - 半熟ドクターのジャズブログ
ひっそりと、めっちゃマニアックなジャズ検定クイズやってみます。
意外に、正答率がジャスト60%をキープしているんですよ。
僕問題作る才能あると思う!