半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

肝臓関係のOTCの周回遅れぶり

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それでも1日くらいは近場の大きな公園に行きました。
令和の御代になりました。みなさんお元気ですか?

うちの病院は4月30日と5月2日をあけていたので大して休みはとれてません。
連休中の日当直は非常勤医師(バイト)でまわしているんですが、連休中に入院した人は、目が行き届かなくなりがちです。
長い休みで、リレー方式で診療つなぐ場合、責任のある時間まではきちんとみるけど、休み明けまでの責任はとれない。
バイトだと担当している間に問題が起こらなければそれでいい、となります。僕もバイト医の時そうだったし非常勤医師にそれ以上要求するなら、病棟がしっかり医師と連携する体制を構築しないといけない。
それよりは週単位での治療の計画や修正は、誰かが横串をさして診た方がうまくいく。

そんなわけで1日1度は病院に行って、そういう入院の指示出しをしたり、場合によってはインフォームドコンセントしたりしていました。ま、僕は残業とか時間外手当の範疇の外にありますからね(泣)。

苦痛かって?一人開業医の先生よりはいいとは思ってます。
普段の週末は(出張とか)上京させてもらってますし。

* * *

今日のお題は、OTC薬、Over the counterの略なんですが、要するに受診せずにドラッグストアで買える薬。
ああいうやつ、よさげなCM流してますけど、医者の普段の診療の水準からは数十年遅れていたりするわけです。

例えば便秘薬。

酸化マグネシウム E便秘薬 【CM】

コーラックMg Web動画

なんかこれすごいいい便秘薬のように見えますけどカマグなんて50年前くらいから医療現場で使われている薬。
そんなんやから、医療保険だとクソみたいな値段です。
市販薬って、医療保険による自己負担分を除いた実薬分で、だいたい倍の値段しますね。
「薬九層倍」という昔の言葉を思い出します。
最近の便秘診療はアミティーザ、リンゼス、グーフィスなど新薬が立て続けに出ていて最近やや動きがあって面白いんですが、その分市場交代を迫られている酸化マグネシウムが、しれーっとOTCで、新しいパッケージで売られてる様を見ると、薬売る人間の良心なんてあてにできんなと思います。

ま、でも便秘薬はいいや。最低限、うんこはでるから。

* * *

一応僕は肝臓専門医なんですけれども、肝臓領域のOTC薬なんて輪をかけてひどいですよー。
ヘパリーゼ、ネオレバルミン、ウコン、ビタトレール、レバオール錠、ビィレバー……

その多くは、肝臓水解物*1とか、タウリンとか、コンドロイチンとか、そういう物質を混ぜ合わせて作ったやつ。
たまに甘草とかウコンとか入ってたりもします。時々ウルソとかも入っていたりもします。

まあ、はっきり言って、今の肝臓の学問レベルからいうと、どれも全く意味なし。
むしろ薬剤性肝障害の可能性になったりするので、悪影響の方が多いかも。って感じです。
よくこんなもの売るな……というのが正直な感想。

ま、ただ多くの健常な方の肝臓は、ほとんど問題にならない盤石な臓器なんですよね。
車で言えば、ガソリンタンクみたいなもんなんです。
例えば心臓って、車で言えば、エンジンみたいなもんですが、不調を来たせば、即症状に現れます。
でもガソリンタンクって、少々変なもん入れたって壊れないじゃないですか。

肝臓は俗に「沈黙の臓器」といいます。
大事な臓器ではありますが、ほとんど壊れたりしません。
異常も症状としてはでてきません。
もし壊れたら、その時は症状はでてきますが、まあだいたい手遅れ。
その変が、僕が肝臓=ガソリンタンクと言いたいゆえんです。

だからOTCの肝臓薬のほとんどは、昔ガソリンスタンドで勧められた「水抜き剤」みたいなもんです。
なくても、別に困らない。入れても害にはならないでしょう。

ま、しかし、一世代前に遡りますと、肝臓病はB型肝炎C型肝炎も今よりずっと多く「国民病」と言われ患者人口も多かったが、インターフェロンも発売されたばかりで、有効な治療薬の選択肢はほとんどありませんでした。
仕方がなく使っていたのが、強力ネオミノファーゲンC、グリチロン、ウルソ…という薬です。
原因がなんであれ、これらを使っていました。昔の医者は。

今ではウルソこそPBC*2に効くのでこの一連の薬剤とは別の扱いになります。それ以外の薬は、効果も実証されず、アメリカの教科書ではherbal medicineと一言で片付けられています。
それでも、治せる薬が他になかったからこれを使うしかなかった。

一世代前は、肝臓のデータ(GOTとかGPTとか)が悪かったら、週三回か週五回「強ミノ」を注射に診療所に通うのは、どこでもよくみかけたものでした。患者さんはずーっと注射を受けているもんだから、肘静脈がカッチカチになってて、病棟で注射当番をしていた研修医の僕ら泣かせ*3でした。肝臓のデータがなかなかよくならないので2年くらいずっと入院していた、とかそういう話も昔はざらにありました。

* * *

現在、肝疾患治療はかなり様変わりしました。
強ミノを使うことはほぼなく*4ウイルス肝炎はコントロールできるようになり、癌の薬も、肝硬変の支持療法の薬も、一変しています。

でもOTCの薬は、一世代前の知識のままです。
僕は、健康な肝臓、ちょっとアルコールで疲れているくらいの肝臓は、余裕がありますから、害がなければ、まあまあいいでしょう、と思っています。ただし、肝硬変の人が、たまに無知な友人にすすめられて、そういう薬を飲んでくるのには閉口しています。

肝硬変の人には「ヘパス」という、肝硬変に対して優しい栄養剤(BCAA製剤ですね。食品あつかいになってます)があるんですけれども、一度それをドラッグストアで買ってくるようにいったら、ドラッグストアの薬剤師がヘパリーゼタウリンをすすめたって、それを買ってきたのにはしびれたね。


*その他のBlogの更新:

*1:豚の肝臓エキスとか、そういうやつで、これって多分「医食同源」とか類感呪術の思想に基づいているんだと思う

*2:PBCのCが「肝硬変」から「胆管炎」に代わり時代を感じます

*3:多分患者さんはもっと泣いていたでしょうが

*4:たまに原因不明の肝障害で原因判明するまでおまじないがわりに使うこともあります。これも肝臓専門医ほど使わないですね。使うと爺医扱いされるので研修医は使わないように