半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

夜間診療 2.0

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一応内科医のはしくれとして医療界に身をおいて20年目になります。

冬は一般内科医のハイシーズン。
普段の定期通院の患者さんに加え、風邪とか肺炎とか、血管イベントとかいろいろで、じわっと外来診療の数が増えます。
おまけに1〜3月は祭日も多から通常外来も飽和気味。
入院も増えているし、一日終わるとヘトヘトです。

中小病院は「かかりつけ医」として定期通院も診るし、緊急入院も診られる。ある意味経営的には最強ではあるがその分、忙しいときは忙しいですわな。
「かき入れ時」であるのは事実なので、がんばります。

* * *


内科救急、時間外診療を20年近くやっていますが*1、夜間休日・時間外診療って、理解よい患者さんばかりではなく(すごく婉曲な言い方をしました)不適切な患者のニーズ(風邪で、抗生剤をだしてくれとか、点滴を出してくれとか)とやりあう、なんてことはしょっちゅう。*2*3

最近は、厚生労働省が、風邪診療のガイドラインとか抗生剤の適正使用のキャンペーンをはってくれてるおかげで、風邪に対する抗生剤処方、対応しやすくなりました。患者からの求めも断りやすいし、濫用しがちの医師にも注意はしやすくはなりました*4

ただ、やっぱり救急外来・時間外診療は、不確実性が高い。
時間外受診は、どうしても、オーバートリートメントになりやすい。
抗生剤投与も「念の為入院」だって、ある種の過剰診療だったりする。
例えば高齢の方で上気道症状、採血して、CRP 3、WBC 9000(微妙!)痰がやや粘調……
60歳だったら多分抗生剤出さない。要介護4のCOPDの90歳だったら…出すかなあ。
では75歳の自立の方だったら?85歳だったら?
判断に迷う症例は、常にあります。

* * *

特に時間外・救急診療はそうですが、外来にやってきた患者さんはその後フォローできない、という前提条件で救急医療体制は構築されています。
一期一会。フォロー必要なケースは、つかまえておくしかない。
一般に、点滴など加療が必要な方は入院し(入院できなければ入院できるところに紹介する)。内服薬でなんとかなるような人は外来で診る。
それでなくても、不確実性ゆえに、一泊入院して様子をみる、なんてこともしばしばあります。
胸痛とか卒中などは、それぞれProtocolが確立されていますね。
それ以外にも悪性転帰を予測できない症候ってあります。
「当直ご法度集」とかそういう本は、事例から学べるTIPSです。
こうした本での教訓はやはり「安易に帰宅させる」への警告。いったん帰宅させて病状が悪化して……悪夢のような経過をたどる。
ただ、そういう事例はナラティブなレベルで注意喚起はされるが、定量的には評価されてはいない。

現行の体制では、できる医師は、安易に帰宅させず、最悪の事態を想定して診療を行う。
帰宅させるより入院させた方が安全。
その医療体制に、私も疑問を持ったことはありませんでした。そういうもんだと思ってたから。

電話再診を義務付けるようにしたらどうか?

ただ、ちょっと考えると、今は、ほとんどの患者さん、携帯電話もっていますよね。
もしフォローアップしようと思えば、フォローアップできるのですよ。
これを、もうちょっと診療行動に組み込めないもんでしょうか?*5

例えば、頭痛と吐き気がある。明確な髄膜炎とは言えないけど「髄膜炎も否定できない…」と迷うシチュエーションってありませんか?
どのように熟練しても、症状は段階的なものであり、閾値をギリギリ下まわる症例は、常に存在する。

そういう際どい症例、夜間に「念の為」髄液採取を行う?もしくは経過をみるため入院させる?
それもまあ一つの正解でしょう。
でも、例えば医療スタッフ、事務でもいいが、3時間毎に連絡を入れて症状の確認をする、なんて選択肢があるとすれば?
あらかじめ、内服薬(NSAIDs)を用いても、X時間たっても症状が改善しない、意識障害が生じる、など条件を設定しておき、その条件を満たせば、病院に来てもらうように、予め決めておく。
もしフォローアップのアルゴリズム化ができれば、ハイリスク症例はともかく、ミドルリスク症例については「手遅れ」を防げるのではないか。
それゆえに「オーバートリートメント」も減らせるんじゃないかと思います。

対象になりうるのは、腹痛、喘鳴、めまい、髄膜炎兆候、などですかね。
治療介入閾値の手前の症例は、帰宅経過観察で、必ず連絡をとることで帰宅経過観察の精度を上げられないだろうか。

今はテクノロジーでなんとかできる部分もあると思います。なんなら、体活動計やサチュレーションモニターを貸与し、遠隔でモニタリングしてもいい。

* * *

しかし今そういう診療を自院ではじめようとしても、難しい。
なぜならデータがないから。
何時間まで経過をみて、症状がどうなったら安心なのか、逆にただちに病院に受診すべき状態なのか、という定量データがない。
重症例は入院しているので今までの統計を外挿してもいい。しかし軽症例についてはデータがない。
有症状で外来受診される方を「外来で泳がせると」何時間でどれくらい変化するのか、どのような転帰をたどるのか?
このデータを蓄積させないと、外来モニターありの診療体制に移行できないと思っています。

もし全国的にこういう取り組みができれば、データが蓄積できれば、夜間救急外来での「見落とし」「見逃し」も、
不確実性から必然的に生じるオーバートリートメントもだいぶへらすことができるのではないか、とも思います。

今の医療体制は、ERにいて「医師」からみた視点で、診療がまとめられています。
そうではなくて、「患者」の視点で診療体制を構築するなら、こういうフォローアップ体制になるのではないのかな、と思います。

そういう体制をつくると、夜間診療はより安全なものになるし、医師が悪性転帰に責められることも減るのかなあと思う。
もっともそうなると、医師よりもナースプラクティショナーが夜間診療に出張ってくる時代になるかもしれませんが。

*1:私は、スーパーローテート直前の最後の世代でもあり、田舎に配属されたこともあり、3次救急の経験がないのです。

*2:医者になりたてのころは「すごい高血圧なので薬で下げてくれ」っていうの多かったですね。ちょうどアダラートカプセル舌下が非推奨になった頃です。今はだいぶ減りましたが、今でもたまにあります。

*3:普段医者行かない人が、救急外来受診して「なんやこれはどないなっとんじゃ」的なことをBlogとかで書いて、逆に総たたきされる、なんてのも時々みかけますね。

*4:患者さんには「僕ら怒られちゃうんで…厚生労働省にー」とかいいます。濫用する年配の先生には「病院としてこういう方針でいくことを目標設定していますんで…」と言いやすいですね。

*5:例えばアメリカのERでは、そういうことはできません。無保険者、低収入者の最後の砦であり、ER診療は一期一会に、どうしてもなる