半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

コロばぬさきの杖

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珍しくきれいな虹。夕方に。
コロナ、コロナ、コロナ…
情勢は日に日に悪い方に向かっている。

新型コロナウイルス(COVID-19、SARS-CoV-2)、4/2現在、大都市圏での感染者はじわじわと増えて、いつ指数関数的な爆発に陥るか、非常に恐ろしい瞬間に向かおうとしているかのように見える。

志村けんさんが亡くなられた。
すごく悲しく、ショックだったが、これで少し三月下旬の緩んだ空気が引き締まったのも事実だ。
ただ、「コロナ戦争における爆弾三勇士」みたいな存在になるのも、志村けんのありようからすれば不本意なことだよなあ、とも思う。

* * *

僕は田舎の中小病院で、内科をしている。
いまだに自分のいる二次医療圏からの発症者はまだ、いない。
その意味ではまだまだ余裕がある。

ただ、ニューヨークで起こっていることが、三〜四週後には東京にも襲いかかってくるだろうし、
東京で起こっていることが、三〜四週間後に僕らの街にも襲いかかってくる。
日本人の行動がうまくハマって、欧米ほどひどくなければいいのだけれど、甘い見積もりはしない方がよさそうだ。

* * *

田舎とはいえ、鎖国しているわけではないから、いずれ、どん!と津波はやってくる。

標準防護策をしっかりしていれば、感染しないんじゃないかと当初は思っていたが、
ニューヨークやイタリアの、日本の平均的な医師よりも高給の、すなわち高級な医師たちがあっさり罹患している事実をみると、
我々だって診療を通じて感染しないとはいえまい。*1

ひょっとしたら死ぬんじゃないか、という考えにとりつかれると、やはり怖いのだ。
僕なんかは60歳まで生きれたらいいや、なんて日頃公言しているくらいの早死に万歳論者なのであるが、それでもやっぱり怖いと思う。*2
運悪く、私も妻も死んでしまったら、子供達はどうなるんだ。

癌とかの病気は、惨めな気持ちにはなるが、1ヶ月くらいはいろいろ事後処理をする猶予がある。
でも、この病気で運悪く重症化してしまったら、呼吸困難で病院に担ぎ込まれて、あっという間に隔離されてしまう。
人工呼吸器にまだ運よく空きがあるとしても、挿管されてコミュニケーションもとれないままに1〜2週間経って死んでしまう、ということもあるわけだ。
感染爆発で医療崩壊していたら、一〜二日で苦しみぬいた挙句死ぬのかもしれん。
次に家族に会うのは、骨になってからなんだ。

非常に理不尽な死だ。
が、東日本大震災だって、阪神大震災だって、天災というのは理不尽なものなのである。

お金のこととか、銀行口座の口座番号、ハンコなどをきちんとしておいた方がいいかもしれないな、と、
45歳の身でありながら今本気で思っている。*3
まあ、このBlogとかはどうでもいいけど、更新が止まったら、みんな察してください。

しかし、税務署も迅速に動いてくれるんかいな……
僕なんて若いから法定相続人なんて知れているけど、父母世代はどうなんだ。
死んでしまっても、全国の係累に連絡をとり、場合によっては会いにいき相続分の交渉なんてできない。
平時の業務のようにはいかないし、かなりいろいろ難しいような気はする。
政府はここんところのコロナ死亡に伴う相続関連の猶予を保証してほしいな。

* * *

外来は、少し数は減ったが、当然続けている。
普段の外来では、胸部の聴診などをしているけれども、現状では、聴診器を介した感染が怖いので、特に症状申告がなければ、患者さんを触らないようになった。*4
ちなみに、総合診療科の先生は、どうしているのか知りたい。OSCEしぐさ、いまだに遵守していますかね?

80歳とか90歳の患者さんはさすがに家からあまり出ずに大人しくしている方が多い。
それはそれで、サルコペニアが悪化するので、寿命を縮める危険はあるけれども、さすがに肺炎にかかりたくはないので、正しい行動だと思う。

しかし、当地に住む、団塊の世代から下10年くらい、60代〜72歳くらいまでの人たち。
人にもよるけれども、この方達は、4月2日現在はあまり危機感がないように感じる。

高血圧の人とかで、喫煙されている方とか。
志村けんを引き合いにだして、タバコやめませんか?といっても、
「いや〜そうはいってもねぇ」とあまり心には響かない。
まあ、僕は毎回タバコタバコうるさいからかもしれないけれど。

しかし、喫煙はCOVID-19の死亡リスクも重症リスクもかなり押し上げるのは事実。
おりしも四月から健康増進法ってやつで喫煙できる場所もかなり制限もされる。
禁煙するにはいい季節なのだがなあ…
僕としても患者さんに死なれたくはないのだ。

また、上述したような「死ぬ準備をしておけ」という話をしても、
「えー、先生、おおげさ……笑」と今ひとつ反応が鈍い。

まあ、これは地域にまだ患者さんが全然いないのだから、無理もないかもしれない。
まだ当地に厄災がくるには数週間ある。その間に考えてもらおう。

60歳〜70歳の喫煙家の重症化もしくは死亡率は、かなり高いだろう。
10%をくだることはあるまい(追記)これはやや乱暴な推論かもしれません。

ちなみに、敗戦後のシベリア抑留された日本兵の死亡率が、10%程度である(57万に対し5万8千人死亡)。
シベリア抑留されるかもしれない、と考えると、おそろしくなってこないか?

今僕らにできることは、だからstay home。
Stay home。

(追記)
資料を再確認しますと、60代の死亡率は3.6%、70代の死亡率は8%(中国・イタリア)
喫煙者の死亡・重症リスクは約3倍という数字があります。
これから類推すると、喫煙60代の死亡率は10%といってもいいかもしれません。
が、正確な資料は今の所ありません。
なので、10%は言い過ぎたかもしれません。
多分5-10%の間におさまると思うので、そのように訂正させていただきます。
ちなみに太平洋戦争での日本国民の死亡確率はざっくり4%です(310万人/7200万人)

*1:JCIとかとっている病院なんて、感染防御についてめっちゃ優秀なはずじゃないか。それでも感染しちゃうの?と思うとかなり恐怖だ。

*2:老いのしんどさを診すぎたからかもしれない。どうせ60歳まで生きられないと思っているからiDecoもやっていないのだ

*3:これについては昔痛い記憶があって、肝不全の患者さんを治療していたときのこと。色々やってやり尽くして最後は肝性昏睡になって余命あと幾ばくもないってところで、奥さんがぽつりと「先生、ちょっとでもいいから意識戻りませんか?この人しかしらない銀行口座があるんです…」と言われ…。奥さん的にはテレビドラマみたいな臨終の際の一言を期待していたようなんだが、そんなの深昏睡になってたら絶対無理。二週間前に言ってくれればなんとかなった。それからは早めにそういうことを匂わすようにしている

*4:ちなみに基幹病院で肝臓内科の専門外来では聴診はしていなかった。プライマリに戻り必ず聴診をするようになったけれども、今、三月から当たり前に患者に触れないようになり、患者さんもそれをあっさり受け入れている。