遠隔診療についてつらつらと書いてきた。
遠隔事始 3 遠隔診療が導入された場合の影響:移動診療室および遠隔専門医師の存在?
ちなみに、保険診療の遠隔診療については、いわゆる特定疾患加算とかそういうのはとれない。
ではメリットがないのではないか、と思うのだが、これを「選定療養費」という形でカバーするというビジネスモデルをとっている。
「選定療養費」という言葉は非医療者にはなじみがないが、めちゃくちゃざっくりいってしまうと、自由診療と保険診療とのグレーゾーンに対する緩和措置みたいなものである。医療においては自由診療と保険診療の混在は認められていないのだが、そうはいっても人の世のことだし、ここはソ連でも東独でもないのだから、超富裕層も生活保護の方も、全く分け隔てなく同じだと、何かといろいろと具合が悪いわけである。例えば、入院の際に「個室」だと個室料金を取られるが、これは選定療養費の代表的なものだ。
ここ最近では、大きな病院の外来を紹介状なしに受診すると、選定療養費と称して余分にお金を取られたりする事が多いが、これも「選定療養費」という形だ(これははっきり言ってしまうと受診抑制のためだ)。
遠隔診療は、アクセスを容易にし、完全予約制であるので「選定療養費」をとる、という理屈になる。その分、受診コストは上がると考えられる。
ちなみに診察料含め、支払いはクレジットカード登録をしておき、自動引落しになる。
医療機関にとっては、未収金の発生リスクがおさえられ、またクレジットカードを持てない層のアクセスを遮断する形のメリット(メリットと言っちゃっていいのかどうかわからないが、経営的なことを言うと「上客」が来やすい方が、そりゃいいわけです)がある。
逆にいうと遠隔診療は、すべての患者さんにアクセスしやすい環境ではない。最もターゲットになりうるのがホワイトカラー層、さらにその上のエグゼクティブ層だろうと思われる。
また、ワーキングプアの方々にとっても、平日の受診時間調達コストが高い場合(「休めない」という)は、これはあまりいい状況ではないが、コストベネフィットに見合うのかもしれない。
遠隔診療が普及した場合に、診療を受ける患者側にはどのような変化が訪れるだろうか。
個人的に思っているのは、採血の間隔に対して、自覚的になる可能性が高い、ということだろうか。定期通院している患者さんの場合、採血するかどうかは、実は結構あいまいな根拠で決められている。「今日は採血しておきましょうか」「今日は前回もよかったしやめときましょうか」みたいな感じだが、採血間隔については、ガイドラインなどでも慎重に言及が避けられていて、医師の裁量に委ねられている。
現実的に、がっちり毎月採血をされる先生もいるし、驚くほど採血をしない先生もいる。
私は、高血圧や脂質異常の一次予防であれば、年に3-4回の採血でいいのではないかと思うが、この辺のところ、患者さんも、医者に言われるままになんとなく採血したりしなかったりすることがほとんどではないかと思う。
遠隔診療であれば、採血をするかどうかで、患者側の行動が全く変わってくる。遠隔だと在宅で終わるものが、採血があるなら病院にいかなければいけない。つまり採血のハードルが上がる。であるから、医療者としても「なぜあなたに採血をこの間隔で採血をしなければいけないか」ということをきちんと説明しなければいけなくなってくるだろう。
院内で、採血の間隔に関するガイドラインをもうけたり、統一、標準化される流れに向かうだろう。
もう一つは、説明に関するハードルも、多分上がる。
例えば、診察室での対面診療で、資料もない状況であれば、医者・患者間の関係性は、今でも医療側の方が優位にある。
遠隔診療だったら、相手はスマホの画面越しに見えている存在なわけで、権威としての後光は失われるであろうと予想される。本当のイルカには声援を送るが、Windowsのヘルプのイルカがどれだけぞんざいに扱われているか考えるとわかるはずだ。
それに、診察室だったら患者は手元に情報をもてない。でも遠隔診療だと、患者さんだってスマホでやりとりしながらデスクトップのPCで当該領域のガイドラインを読むことだって可能だ。「先生のその決定、ガイドラインと違うじゃないですか」とか言われてしまうことは、多分ありうる。
上記2つは、いずれも、現在の医療に横溢している、情報の非対称による医療側の優位性を減弱する効果がある。
それがどれくらいのインパクトがあるかわからないが、普及次第によっては受診行動のスタンダードがかわる可能性があるよなあと思っている。ろくに説明もせずパターナリズムで外来をやっている先生、なんとなく毎月採血してがっつりもうけている診療所に対する淘汰圧が強まるのではないかと思っている。
だからこそ遠隔診療に対する政策がどのような政治決着をみるのかには多少興味があるのだ。