半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

遠隔事始 その3:

 遠隔診療の本質として、患者さんはどこにいても診察を受けられるというメリットがある。

そして、それを拡大すると、医療側の方も、どこにいても診療を行うことができるかもしれない、ということになるだろう。

 これは現時点では議論されていないが、今後、かなり問題になってくるのではないかと思う。

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 遠隔診療については、2017年7月の現時点においては「実際の対面診療を補完するものであり、一度は「対面を診察をしなければならない」という縛りをもうけられている。

 ただ、これも、禁煙外来については「最初から最後まで遠隔診療でいい」という通達も出されたわけだし(その2巻末参照)今後緩和されてゆく可能性は十分あると思う。ただ、それはおそらく「遠隔診療 2.0」みたいなフェイズにおいてではないかと思う。

 私も古い人間ですから「最初から最後まで遠隔」はやはり抵抗がある *1し、自分としてもそこを業務として拡充していくつもりはない。「最初から最後まで遠隔」は、やっぱり現行の医療のあり方からいうと違和感がありすぎるから。

 今回は、対面診察と遠隔診療を混合させた診療形態について考えたい。

 が、現行の法整備でも、幾つか抜け穴が気になるところがある。

「医師Aが、B診療所で対面診察をするという形態をとる。遠隔診療の時、医師本人は診療所におらず、院外から遠隔診療デバイスで患者と交信する。診療報酬請求は診療所Bで行う」は是か非か。

これが疑問その1。

また「医師Aが、B診療所でリアルな対面診察をする。その後フォローアップの遠隔診療はC診療所で行う」という形態をとることは是か非か。診療所Cで報酬の請求ができるか。

これが疑問その2である。

もちろん、十分な情報共有ができることを前提としてで、ですよ。

 遠隔診療そのものは、ノートパソコンがあればできる。電子カルテとつながっている必要はない。クラウド型のネット接続の電子カルテもあるが、メジャーどころの電子カルテスタンドアローンで、ネットと接続していない事が多い。

 ちなみに、診療所の電子カルテへの記載はDAによる代行入力で多分問題なさそうだ。

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 疑問その1については、現在も手広く行われている「往診」という概念を拡大解釈すれば、問題がないのではないか、と考えられる。もちろん往診は患者の利便性を増すし、国の望む診療であり、診療所での診察よりも手厚く報酬がつけられている。「疑問1」の事例については、患者側にはメリットは発生しないので、この遠隔診療は多分優遇はされないだろう。ただ、報酬が認められない、というのは考えにくい。

 もしこれが許されるのであれば、考えられるのは、まずは、自宅にいながら遠隔診療を行う「引きこもりドクター」であろう。請求業務は、事務員にさせればよい。全く問題がない。遠隔診療の事務員用のアカウントに、内容を記載すれば共有はできる。

 そんなの得にならないじゃないか?と思われるかもしれないが、それは個人診療所は一人でやるもんだという先入観があるからだ。例えば診療所に在籍する医師が5人だとしよう。診療所で対面診察を行う日は日替わりで分担を決める。

 もしそうなら、診察室は一つしか作らないで5人の外来診療ができる。残りの日は自宅で遠隔診療をしてゆけばよい。

 シェアリング型の診療所であれば、固定費が劇的に下がり、開業のハードルがさがる。

 診療所の経済学が根底からひっくり返る可能性がある。

 さらにいうと、診療の場を自宅に限定する必要もない。さすがにスターバックスはオープンなのでだめだろうが、コワーキングスペースのブースを借りて、遠隔診療をしたって悪くないと思う。

 僕なら、学会出張のホテルの部屋で遠隔診療をしたい。これも、可能だろう。

 やや極端ではあるが、生活習慣病のフォローを行うDr.で、特に運動勧奨を行うような外来であれば、敢えてオートキャンプ場とかサンシャイン池崎のような格好のスポーツサングラスをしたドクターが、ランニングの途中にスマホから遠隔診療をする(そして松岡修造ばりのアツい指導を行う)みたいな「エクストリーム診察室」みたいなトリッキーな診療が人気を博す時代さえくるかもしれない。 *2

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 現行の法制度というのは、医師が勤務する場所は基本的に固定されている前提で法整備されている。遠隔診療はその他の業種でのビジネスデバイスと同じく「ノマド系ワーカー」を可能にする可能性があるが、現在の法制度では、そういう就業形態はフォローできていない。 *3

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では疑問その2「医師Aが、B診療所でリアルな対面診察をする。その後のフォローアップはC診療所で行うという形態をとることは是か非か」という話はどうか。

 これは、さらに状況をややこしくするが、もしこれが可能であれば、例えば、僻地診療所の医師も、月に一度だけ東京のコワーキングスペース的な診療所に赴き、遠隔診療用の初診外来を行う。その後のフォローは僻地から遠隔診療で行う、という形態のビジネスが可能になるだろう。

 また、マーケット的にペイしない疾患の専門医であっても、ローコストの診療所を開設し、遠隔診療をメインとする(なんなら自宅でもいい)。対面診療は複数のエリアの診療所と契約し、順繰りに巡回する。基本的に対面診療は診療所を間借りして行うけれども、フォローアップの外来は遠隔診療で自院で行えばよい。専門に特化した外来の自分の顧客集団を抱えることが可能になる、なんてことも可能だ。

 さらに希少疾病の専門科でなくても、マンションの一室を遠隔診療室として開業する、というのがビジネスモデルになる可能性はある。えーと、まあ、「デリヘル」ドクター、ですね。言葉のイメージが悪いが「ヘルス」そのものですからな。

こういうのが当たり前になると、どうしても、医師の外来のパフォーマンスと報酬を連動させざるを得なくなってくるだろう。今は医師の外来診療の報酬は、時間枠でいくら、という形が多いが、遠隔診療となると、医師は個人事業主的な振る舞いを要求されることになる。1人いくらの報酬体系を導入せざるをえないし、間借りする診察室も、場所提供代と、診療報酬分をわけて考える時代になってくると思われる。

つまり、診療報酬の取り分が、場所、医療機関ベースではなく、個人の水揚げベースでみる時代になるだろう。かなりあからさまな形で。

*1:80年代の懐かしのキャラクター「マックス・ヘッドルーム」を思い起こさせる

*2:現在は診療側はPCが必要であるが、技術がすすめばスマホでできるようになるだろうと思う

*3:私は個人病院の院長をしつつ、週に1度基幹病院の専門外来を今も続けているが、これも法律的に多少想定外であることを身をもって体験している