半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

医療データの情報共有について その3

続きです。少し間が空いてしまいました。
hanjukudoctor.hatenablog.com
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  • 医療データをどの医療機関でもシームレスに統合するというのは、現状をみるかぎりかなり難しい。
  • 電子カルテはある種の「鎖国」であり、データのI/Oを想定していない作りになっている。
  • 電子カルテの「本文」であるテキストスタイルの文書は持ち出しにくくまたインポートされない。

もう少し詳しく言えば、電子カルテのデータをごっそり抜き出すOutputは、意外にできる。
採血データ、PACSの画像データなど、薬剤情報などは、抜こうと思えば抜ける。
ただし、外部の情報を電子カルテにインポートすることは、かなり難しい。
忌々しいことだが、電子カルテのデータは、診療行為で日々更新される形でしか入力できないことがおおく、外部の電カルのデータでの診療録をそのままもってはこられない。
多分、この流れはなんらかの強制力がないとベンダーは変えるつもりがないだろう。

でも、多分そこはかなり難しいんだと思う。日本的な合意形成システムでは。
なので、スモールステップを積み重ねる必要があるんじゃないかなと思う。
だから、

とりあえずあのクソ忌々しいFAXをアップデートできないか

というのが僕の提案。
Fax。
今では先進国はほとんど使わないらしい。
多くの医療機関では(うちもそうだが)当たり前のように使っているが、これほど情報漏えいしかねない代物はない。
医療機関間違いならともかく、送信のときに送り先を間違えてプッシュしてしまうと、医療機関でもなんでもないところに、個人情報が漏れてしまう。*1

ついでに言ってしまうと、郵便も前時代的だ。
古式ゆかしい信書システムの上で情報のやりとりが成立する非効率性は、もう少し考えてもいいんじゃないかと思う。
コストもそれなりにかかるし。

Faxの代わりに情報のI/Oを司る端末を義務化する

ここからは、こんな機能があれば便利だな、という私の妄想。

  • それぞれの医療機関には手紙のやり取りのためのソフトをインストールした端末の設置を義務付ける*2
  • 端末はVPN化されたインターネット回線を持つ通常のPCで充分。それぞれの医療機関は固有のナンバーを持つ。医療機関のナンバーは各地域の厚生局が管理すればいいだろう。標榜科のデータも厚生局には揃っているしね。
  • 電子カルテ化されていない医療機関ではこの端末は記録を集積できるファックスのようなものになる。手書きの手紙をスキャンして他の医療機関に送る。もしくはワードのような信書入力機能はソフトウェアに実装してもいい。他所から受け取った診療情報提供書を集積することもできる。メールボックスのように使えれば便利だろうな。
  • 電子カルテには、診療情報をこの端末にインポート・エクスポートする機能を義務化する。小規模のベンダーでインポート・エクスポート機能を作れない場合、電子カルテとこのソフトウェアを同じ端末で共有しテキストのコピー&ペーストができる状態にしておく。
  • 要するに、診療情報提供書の共通規格をこのソフトウェアで走らせる。
  • このソフトウェアは各医療機関で1つ。おそらく地域連携室で管理することになるだろう。

前回述べたように電子カルテは一緒の鎖国のようなものだ。
このソフトウェアは、そのような鎖国的状況の中で「出島」のような機能を果たすものだと考えればいい。

セキュリティにナーバスな電子カルテのベンダーはオープンなネット環境を好まない。
開国にはまだまだ時間がかかる。
この「出島方式」では限られた端末のみインターネット回線にリンクすることになり、セキュリティに関しては一定の担保がなされる。
このやり方であれば現実性は高いと思う。

医療機関の手紙機能を一括して管理する。
郵便ポストとファックスとメールボックスの機能を足したようなものだと思う。

また、このソフトウェアを使うと、エリア内の全医療機関への通達も容易だ。

全ての電子カルテの情報を全国的なデータベースで統括することは理想だが、現実的にかなり難しい。
しかし1人の患者の診療情報を、人の目を通した上でエクスポートする事は、現在の「鎖国」的な電子カルテシステムの中でもできる。
それほど難しくは無いし、コンセンサスは得やすいだろう。
よしんば全国的なデータベースを作るとしても、今ある診療録情報は移行しなければいけないけれども、それすらできないのが、今の電子カルテなのだ。理想形にいくとしても、まずは既存の電子カルテにデータを吐き出させないといけない。
過渡期としてこういうインフラは有効ではないかと思う。

このシステムが実現すれば、ある病院できれいに作り込まれた診療録のテキストデータを別の病院でも使うことができる。
外科の先生にはあまり意味は無いかもしれないが、内科や総合診療科の先生にとってはかなり時間節約になるはずだし、彼らのしっかり書いたカルテの価値も上がる。
そうなると、電子カルテの記載のルールも共通化されていく可能性がある。共通のルールで書き込まれた診療録だと病院を変えても書き直す必要がないからだ。結果として診療の標準化、均てん化、効率化ができればいい。

ということを考えたが、どうか。

多分これなら、500億くらいでなんとかなるんじゃないかと思う。
統一した電子カルテの構築だったら、多分1兆や2兆円ではきかないだろうから。

*1:実際事務のインシデントの上位に、送信間違いがある

*2:義務化が難しければ加算で誘導することになるだろうか