前回の続きである。
遠隔診療という形態は、病院と診療所なら、診療所の方が向いている。
なぜか。
医療法では、病院の場合、入院人数と外来人数によって医師配置基準が算定されており、それを満たす必要がある。
リンク→<医師の配置標準について>
簡単に言うと、入院にしろ、外来にしろ、人数を増やせばそれに応じて勤務する医師を増やさなければいけない。つまり、外来を増やせば、それに応じて医師を増やさなければいけない。要するに、病院の外来診療は、それに見合う単価を保証する必要があるということだ。
診療所なら問題ない。院長一人いれば、100人診ても200人診ても配置を増やす必要はない。3分診療にはなるだろうが、それはまた別の問題だ。繁盛しているから医師を増やすのは、当然ありうる。が、あくまで配置義務はない。これはコスト競争的にかなり有利だ。
遠隔診療は、少ない時間で数多くの患者さんを診察する、という「薄利多売」に向いている。アホほど外来をこなして回してゆくという形態に近い。だから病院では向いていない。構造的にペイラインに乗らないと思う。遠隔診療では単価はなかなかあげられないから。 *1
当院の遠隔診療は、基本的には受診通院をしている人に付帯するサービスとして、という形で考えている。要するに、遠隔だけで完結する診療については想定していない。そういうことをするのであれば、診療所を別に設定し、外来機能を外出しにしてやるほうがいいだろうと思う。
このCLINICSというアプリで検索すれば、いろいろなの遠隔診療の形がみてとれる。
最初から最後まで遠隔診療で完結するようなものも散見される。多くは自費診療だったりする。保険診療外で(つまりは自費診療)禁煙治療、AGAの治療薬、バイアグラなどのED改善薬などの販売については、問診と診察で済む。バイアグラ・シアリスなどは病院に出向くのに抵抗があることも多いので、遠隔診療の強みであるとは思う。
最初から最後まで遠隔診療で完結するようなものに関しては、エリアの束縛がなくなるので、シビアな価格競争が今後生じてくる可能性がある。
イケダハヤトではないが、僻地に住んでいれば、生活コストを下げられる分、価格競争でいえば六本木に構えたオフィスより優位にあるだろう。まあ僻地診療は高報酬でもあるから、例えば開業の頭金を捻出するため、子供を私大の医学部に通わせるために、僻地に赴き、診療のかたわら合間に自費診療の遠隔診療でお金を稼ぐ「医療界のマグロ漁船」みたいなビジネスモデルもでてくるかもしれない。
遠隔診療というと、都市部の医師が医療過疎の僻地の患者さんを診療する、みたいなイメージがあるけど、田舎に住んでいる医師が、東京のサラリーマンのバイアグラを処方する未来が来るかもしれない。
当院でも「遠隔診療」を立ち上げるからには、自費診療の禁煙外来とかやってやろうとも思ったが、下手に値頃な価格でやっちゃって、めっちゃエントリーきてもしょうがないのでやめた。
外来のボリュームは有限だ。他の地域の医療にリソースを分配する意味は、全くない。僕は「遠隔診療」がやりたいのではなく、自分の外来の患者さんがより便利になればいいと思っているだけだから。
ただ、もし人生をやり直すなら、遠隔診療を中心に行う診療所をやるのも悪くないとは思う。
※追記(7月19日)
この記事をエントリしたまさにその夜、厚生労働省通達で、「禁煙外来の遠隔診療、初診から再診まですべての診療を遠隔で行ってもよい」という通達が出された。
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017071501001706.html
ただ、3月にこの手の噂がでたわけだが、6月にはこのような記事もでている。
https://mainichi.jp/articles/20170630/k00/00m/040/103000c
これをみるかぎり、上記の「最初から最後まで遠隔診療で完結」というのは、まだGoサインがでていなくて、今回の通達で初めてOKになったようですね。少しフライングでした。ただ、この通達がでて、上述したことが現実のものになるわけです。遠隔診療単独で完結できるようになると、楽天のネット通販と同じで地方の小売店にチャンスが出たように、僻地の先生に商機がでてくるように思います。
ED治療剤やAGA治療などに関しては現在は「一度は対面をするように」という通達になっているようですが、これについては、おそらくなし崩しに変わっていくように思いますが、どうでしょうかね。
結構大事なことですが、例えば、A診療所で対面を行った医師が、B診療所で遠隔診療を行うことを是とするか、非とするか、というのが多分保険診療上の焦点になろうかと思います。