半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

メメント・モリ

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ACP(アドバンスド・ケア・プランニング)に関する講習会を聴いてきた。

高齢であり、多死社会である。*1
仕事として死に立ち会う機会も、個人的にずっと増えたと体感する。

いま僕のいる街を見渡してみても、団塊ジュニア世代を当て込んでつくられた結婚式場などが、気がつくとどんどん葬祭会館に変わっているのである。街は全体的に静謐になっている。
でも、この葬祭会館も、人口がさらに減ってしまったら、どうなってしまうだろう?

そうこうしているうちに、日本の人口はどんどん減って、街は空き家だらけになる。
一世代も経つと小学校もどんどん統廃合されてゆくだろう*2

* * *

この講習は、そもそも地位包括ケア病棟協会が主体となって開催されたものだった。

ACP(アドバンスド・ケア・プランニング)という言葉は日本においてまだまだ知名度が低い。
その認知度に比例し多死社会の到来に対して、十分な準備もできていない。

「地域包括ケアシステム」の中核をになうべき地域包括ケア病床の加算要件に、今年度「人生の最終段階における治療指針」が加わったところから話は始まる。人生の最終段階、というオブラートにくるんだ言い方だが、要するに、死に際してどのような体制をとっているかどうか、ということだ。

地域包括ケア病棟入院料(入院医療管理料)1
適切な看取りに対する指針を保険医療機関として定めていること。

ガイドラインのひな型自体は厚生労働省から出ているものがある。
これをそのまま院内用にしてもいいわけだが、実際ガイドラインを適用するにしても、具体的な方法がわからない…という声が多かった。
ガイドラインという言葉を使っていはいるが、この「看取り指針」のテキストは割とふわりとしている。
具体的に「明日からこれこれを始めてみよう」という文章ではない。*3

看取りについての指針…について「うちは完璧ですよ!」と自信をもって言える病院は、多分多くない。
要介護4・5の患者さんを診ている療養病床のある病院や、特養など介護施設を持っている病院では、こういう看取りを以前から実践しており、看取りの達意のようなものはおそらく組織内に継承されている*4が、どちらかというと急性期寄りの病院では、看取りには直面していなかった。
今までやっていなかったことに直面する場合は、自分達のやっていることが間違っていないか、と不安にもなる。
*5

そこでACPの講習会となったわけだ。
ACPの知識を深めることは大事だし、地域ぐるみで死について考える時代にきているのは確かだ。

* * *

6時間くらいみっちりとした講習会であったが、いい講習会だった。
いいお話が多く、自分の中のACPの知識をアップデートさせることもできた。
私もそうなのだが、看取りを積極的にしている先生の熱いスピリットに感動したり、ナラティブ・メディスンが大事だよ、という話も、普段の診療の疑問に答えてくれるものではあった。

* * *

ただ、ACPの話には表と裏がある。
地域包括ケア「システム」のなかで、どうACPを考えるか、という大命題に対しては適切な講演だった。
しかし、地域住民を啓蒙し、職員を啓蒙して、種をまいても、それが社会で当然のものとされるまで花開くまでには随分時間がかかる。

今我々が病棟で困っているケースのほとんどは、すでに意思表示ができなくなった状態(看取りであったり、臨死期であったり)でACPなどの死に対するコンセンサスが取れていない時だ。
こういう事態に切迫している病棟関係者からすると、ACPの話は確かに「いい話」でとても大事なんだけど、
ちょっともどかしくもある。

残念ながら地域包括ケア「病棟」において、どう行動するべきか?という限定された条件
に対する、明確な答えにはまだ出会ったことがない。

死は人生の集大成である。
いろんな人生がある以上いろんな死の形がある。
家族が積極的に関わってくれないとか、DNARとるとらないみたいな話。
トラブルケースとか、そういう話は、ACPの大きな命題の中では「ちっせえ話」であることは確かだ。

しかし、そういう「ちっさい話」「しょっぱい話」のFAQとでも言える、いわば「ダークサイドスキル」の講演ってないんだろうか。

* * *

というのは「看取り」の話が診療報酬要件にでてくる意味も考えなければいけない。

診療報酬要件というものは、基本的に「標準化」「均てん化」したい事象に対して付けられるものであると僕は理解している。
その観点からすれば、ACPの話は、QOD(Quolity of death)に対して意識の高い医療従事者にはすごく訴求力があるが、病棟の、そういう意識の乏しい医療従事者には、多分響かない。(そもそも講習に行かない)
そういう医療スタッフも、マインドのある医療スタッフと、表面上は同じ行動をとれないか、というのが管理者として望むことだ。

「病棟で最低限こうした方がいいですよ」みたいな講義を聴いてみたいなあと思う。
あるいは、そういうルール作りをしないといけない。


その他のBlogの更新:

だんだん忙しくなってきたので、微妙に更新が減っていますね。
9月に移転してからBlogosphereの一角で何かを物申しているわけですが、正直にいって、レスポンスがあるようなないような状態です。
まあ、自分の考えをまとめるために、書き続けることにしましょう。

*1:特に田舎ほど、この傾向は強い。

*2:この時の選択肢は二つある。一つは小学校同士を統廃合させる水平統合。もう一つは垂直統合で、ガラガラの小学校の敷地内にこども園や老人/障害福祉施設が混在する、地域のハブに転用するシナリオ。このへんは今は縦割りである省庁間の利害調整ができれば、現実味があるかもしれない。

*3:逆に慎重に多種多様なシチュエーションでも論理的な破綻がないように、よく練られた文章ではある。

*4:うちもそうで、私は特養での担当医も兼ねており、そこでは看取りの説明を結構させてもらっている

*5:だからこそ看取りに対して皆に考えるきっかけを与えてくれた今回の診療報酬要件は、悪くないと僕は思った