半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

一つの区切り

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コロナウイルス(Covid-19, SARS-CoV-2)。
地元では、第二波はおさまった。一旦は感染症の拠点病院での入院者がゼロになったのだから、終息したといってもあながち大げさではあるまい。
しかし、間髪を入れず、散発的な感染報告はあるようなので、まあ第三波というのは間違いなくあるのだろう。
あるいは、この先はもう「第何波」という形ではとらえきれないのかもしれない。指定2類感染症からもはずれるようだし。

安倍内閣総辞職

安倍総理大臣が辞任、安倍内閣総辞職した。*1
歴代の首相連続在任記録で最長だったらしい。
このVUCAの時代にこれだけ長く在任できた首相がいるというのは、不思議にさえ感じられる。

中小企業経営者のポジショントークといえばそうだが、僕は安倍政権はよくやったと思っている。
長い間お疲れ様でした、とも思う。
こういう風に書くと、ミュージシャン仲間にもいるアベガー、安倍憎しの友人たちを敵にまわしてしまうのだけれど。

安倍政権は、長く続いただけあって、なかなか巧妙な政権だった。
そもそも国会議員の安倍晋三は「歴史修正主義タカ派改憲主義」というゴリゴリの右派イメージだった。
第一次政権では「美しい国、ニッポン」というイメージそのままの路線はうまくいかず最終的には健康問題で尻すぼみに退陣してしまった。
第二次政権はその反省を受けて「顧客目線」の政権に終始した。それが政権が長続きした理由だ。
安倍政権の提案した数々の政策は、世界標準でいえばややリベラルよりな政策提言が多く、サイレントマジョリティの賛同を得られるような政策と外交が、第二次安倍政権の前半の強みであったような気がする。

* * *

マスマディアをはじめ、日本のリベラルを自認する層には、この事実は面白くなかった。

安倍政権は政権からの手厚い利益を得ているとは言えない若年層と貧困層からもかなり広範な支持を得ている。
それは若者が愚かだからでも政治のことを考えていないからでもない。
僕の世代より上のリベラル、日本の良識であると自認している層が、若者・貧困層をとりこめていないからだ。
これは世界共通の潮流でもある。
かつてのリベラルがリベラルとしてのテーゼを失って迷走している。
だからトランプ大統領であったりマクロン大統領が台頭するのだ。
安倍政権はそういう世界の潮流にきちんと対応している結果長期政権になった。*2

アベノミクス

アベノミクスは失敗だったのか。
安倍政権は置かれた状況の中で比較的健闘した方だと思っているが、日本の経済優位性はずいぶん凋落してしまった。
だが、これは、安倍政権の舵取り「だけ」が悪かったせいではないと思う。

僕たちは「優秀な経済界や本来優れたポテンシャルを持つ日本国民を、愚かな安倍政権がバカな方向に導いて国を滅ぼした」と思いがちだ。
為政者のせいにすれば、自分たちの責任を感じずにすむし、自分たちが凋落の原因だと思いたくないから。

でも「世界のルールの変化を察知しそこねた日本経済界や日本のホワイトカラー・ブルーカラー全員が、世界の進歩にとりのこされて凋落した」というのが本質だと思う。
いまだにファックスが幅をきかせ、テレワークをしつつも判子がなければ書類決裁ができないので判子のために出社する社会。
稟議書の判子をもらうためのスタンプラリー。
一から説明しても理解しない経営陣への繰り返しの会議。
冗長な意思決定システム。
属人的な業務体制を解消せず、果てしなく続く残業。

戦後はよかった。植民地から脱したばかりの発展途上国の中では日本は良質なホワイトカラーを大量に擁した国家として明らかに優位性があった。だから焼け野原になっても驚くほど短時間で経済復興できた。
しかし、今やどこの国でも勉強する意思のあるものは必死に勉強をする。皆優秀だ。
昔とった杵柄とやらなのか、日本では、そこまで真剣に勉強する人は少ない。働きアリ=長時間労働も封じられ、かといって、効率よく働くやり方も見出せず、ICTの進歩にも取り残された。
そもそも、教養主義の伝統は80年代バブル経済にとどめをさされ、知的教養の伝統は大きく損なわれている。
頭が腐っているのではなく、俺たちも、身も尾も劣化していることを自覚しないといけない。

* * *

要するに、アベノミクスは成功しなかったが、それは安倍の采配に問題があるわけではなく、そもそも負けるべくして負けている。
アベノミクスの失敗を非難し、安倍政治の愚を説く人たちは、一体、では誰が適任だったと言うのだろうか?
他の優秀な首相の采配であったら、今よりももっと日本経済が回復していたのだろうか?

かつてないほど面倒な時代に、敵失も相当あったとはいえ、強固な政権基盤を作り出し、制度疲労した日本の旧世代の法体系を彌縫しようとした。
そして、細心の注意をもって対米外交を盤石なものにして、同時にインド洋沿岸諸国と親密な外交を行って、中国に楯突かないギリギリの形で牽制を行っていた。

報道されない部分で、素人にはわかりにくい将棋の「利き筋」を随分たくさん作ってくれているのは、安倍政権の功績であると思う。

安倍政権がとりわけ優れていたとは思わないが、まだ海外に目が向いていた。
その安倍の功罪を批評しようとするマスメディアは内向きすぎるように思う。

世界の進歩から目をそむけている主犯は、マスメディアの近辺にある。
すなわち、マスコミのお気に入りの人材が首相になっても、日本は回復しない。
彼らが、政権の闇をあばく、といって愚にもつかない攻撃をしているさまは、滑稽を通り過ぎて醜悪ですらあると思う。

塞翁が馬

「アベガー」の人たちのイメージとは違って、安倍さんは優しすぎたのだと思う。
もうちょっと正確にいうと「嫌われたくない人」だった。
「嫌われる」か「適当にごまかす」かでいうと、誤魔化す方を選ぶ人で、だから、後半はその揚げ足をとられてにっちもさっちもいかなくなった。

安倍政権は、強い支持基盤の割に*3嫌われがちな経済政策は打ち出さなかった。
その点は安倍総理の性格上の限界だったのかもしれない。
既得権益層にも配慮し、スクラップ&ビルドができなかった。
(その点では小泉首相の方がKYであったし、菅首相は安倍さんよりも甘くないような気はする)。

ただ、皮肉なもので、安倍政権がもうちょっと辣腕で、将来性のない業種の温存をばしばし断ち切って、例えば外国人向けのインバウンドなど、現在のグローバル経済によりフィットした分野をもっと優遇していたら、アベノミクスはもっと成功していたとは思うが、その場合はコロナによるショックは今よりも深刻だったかもしれない。
投資マインドがあった人が、リーマンショックや今回のコロナショックで退場を強いられたように。
塞翁が馬だ。

今後

いずれにしろ、今度の政権がどうあろうと、日本はしばらく凋落を続けるだろう。
よくなる要素がないもの。
人口オーナスだけでなくグローバル人材が少なすぎる。*4
グローバリズムのなかで、英語が世界標準言語となった世界秩序の中で、もっとも米国に近い属国の立場を十分に利用できなかったのが、日本の失敗。つまり、相変わらず英語が苦手で日本の国内にとどまっている団塊ジュニア世代である我々が、A級戦犯かもしれない。

10年後から今を振り返って「安倍さんはなんだかんだいってすごかったなあ」とか言わなくて済む世の中でありたいものだ。
まあいずれにしろ、なるようにしかならない。
国に頼れない時代は、いずれ来る。

10年20年のスパンでみて、自分自身が10年後、20年後に、価値を持つ人材か?と問い直してみよう。
もっとも必要なのは、おそらく変化に対する適応力。
あらたな分野が眼前に現れた時に、平然と勉強して飲み込もうとする姿勢だろうと思う。
一体、僕らの前に何が現れるのか、予想もつかないけれど。

唐突だけれど、個人的には、記述式の医学教科書が、読者によって見解の相違を生み出さない厳密性をもったプログラム言語のような形式に少なくとも20年後は変わっているように思う。
要するに、人間だけでなくコンピュータも読む文書。人間とコンピューター統一言語が作られるのではないか(もしくは、完全に診断の部分はコンピューターが行い、ネゴシエーションと方針決定のふんわりした部分だけが人間が受け取るような形になるか)。
法律、法体系も、AIが処理しやすい文言に変わると思っているが、これも意外にすすまないね。
おそらく法律家が、自分で自分の墓穴を掘るような行為には加担しないからなのかな。だと思うが。

*1:ちなみに、「総辞職」じゃない辞職というのはあるのだろうか?

*2:もちろん加計学園問題・森友問題など不透明な部分はある程度ある。ただ、政策の根幹に関わる話でもないし、長期政権で懸案事項を多く処理した政権ゆえに多くの人が関わっている場合に、一定の割合で不透明な部分、ダーティな部分はでてくるのだと思う。

*3:いや、だからこそ、かもしれない

*4:私だって、ドメスティック人材で、グローバルでは価値がないわけで、国際収支を黒字に変える力のある国にとって有為な人材ではない。それなのにこんな知ったげなことを書いている恥知らず野郎なんです