半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

アルコール依存症臨床医研修のこと

(これは別の場所に書いたものを転載したものです)

 県医師会広報に募集があったので、軽い気持ちで、昨年の11月にアルコール依存症の施設として有名な『久里浜医療センター』のアルコール依存症臨床医研修をうけてきました。

 漫画家の西原理恵子さんの旦那さん(鴨志田さん)が治療をうけたことでご存知な方も多いんじゃないかと思います。

* *

 私は肝臓内科ですので、基幹病院に勤務していた時代からアルコール性の肝疾患炎を沢山診ています*1。診るのは肝障害ですけれども、その背景には当然アルコール依存があります。内臓を壊してもまだ飲み続けているのですから当然です。

静脈瘤による吐血、重症アルコール肝炎、急性膵炎…まあ重病です、全部。

こうしたきっつい病気で基幹病院に入院する場合、さすがにみな命が惜しいらしく、入院でアルコールは一時的に抜けます。ここまではそう難しくはありません(たまにそれすら難しい依存症の方はいます。一時外出で飲んだり、ペットボトルに酒を詰めてベッドで飲んだり…こうなるともう自他共に認める依存ですね)。問題は退院してからの再飲酒で、これを阻むのは非常に難しい。

依存の人、つまりアルコールに強く魂を掴まれている人は、口頭で指導などしたところであまり効果がなく、強く言いすぎると来なくなる、言わなければどんどん飲酒する。最近来ないな…と思ったら吐血で運ばれてきた、なんてよくあります。あと、後悔して本心からお酒やめようと思っていても、今までの生活パターンが変わらない限り、退院後三ヶ月くらいのところに『壁』があって、結構再飲酒してしまいます。難しいんです。*2

そういう現状に問題を感じており、研修を受けたわけです。ずっと講義ばっかりだったんですけれども、面白いトピックばかりで、四日間有意義な時間を過ごすことができました。

* *

 研修を受けて、先進的な地域では地域での取り組みが非常にしっかりしているということを知りました。

 依存症ってやつ精神科のアプローチが絶対に必要ですが、本人は絶対に受診したがらないこと請け合いです。通院の継続はさらに難しい。

 また精神科特有のアクセスの悪さも逆風になります。面倒くさがる患者はアクセスが悪い場所へ受診してくれませんし、街場の診療所は大抵飽和していて予約がとれず、時間的な面でアクセスに問題があります。

精神科を挟まずにアルコール診療は不可能ですが、精神科だけでは患者を捕捉できない。

この二律背反を解消するためにプライマリ・ケアでの拾い上げと連携が必要なんですけれども、例えば僕の住んでいる地域ではそれがうまくいっているとは言えません。

* *

そもそも加療を受けているアルコール依存症患者は全国推計でも10%に過ぎません。アルコール依存は最も治療が行き届いていない診療領域の一つだと思います。

 現状の解決のために平成25年12月にアルコール健康障害対策基本法が成立し、翌年6月施行されています。法令に基づき、基本計画を策定し、アルコールの健康障害対策を推進するとされています。県のレベルで現在計画策定中かと思うのですが、一般診療のレベルには下りておらず、待望しています。

点(精神科の専門診療)が線(診療連携)になり、最終的には面(地域ぐるみの対策)として機能するように協力することが必要です。

プライマリ・ケアのレベルでの協力が必要であるということを改めて強く実感しました。

そう思って、「プレアルコーリズム外来」をやろうと去年くらいから計画していましたが、昨日あまりにもアルコールがらみの患者さんに振り回されたので、ちょっと足踏みしていたのでした。

* *

しかし。

三浦半島の太平洋側に面して、暴力的なほどに何もない海と。

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実習は大変おもしろく有意義だったのですが、久里浜医療センターは日本で一番有名なアルコール依存施設なのに、あまりにも古くボロボロな建物……、

おまけに赤字なんだってさ。

これからどんどんアルコール関連の診療をがんばって行こう、という気分に水を差すには十分な清貧ぶりでした。

*1:今も結構診てます

*2:多分二回目の出所後の田代まさしはきっとそうです