半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

高校野球とブラスバンド

 高校野球ですなあ。

 最近モーニングに『ギャンブルレーサー』の人が野球漫画を描いていますが、微妙に目が離せません。

 僕は学生時代を通して非体育会系でしたから、野球を初めとする運動部にまつわる色々な大人の事情については疎いのですが、あの漫画で書かれている内容には(漫画ゆえの誇張はあろうとも)一片の真実が含まれているんだろうなーと思う。じつにおもしろいです。

 確かに、表に出ている情報からだけでも、高校野球を運営する組織の前時代的かつ非合理で閉鎖的な体系は容易に想像できますし。

実録!関東昭和軍(1) (モーニング KC)

実録!関東昭和軍(1) (モーニング KC)

 

 自分は野球全然しないので、野球選手に感情移入は全くできませんが、応援をする吹奏楽団員なら、ある程度気持ちはわかるんですけれども。

 野球の応援のブラスってなんでああなんでしょうか。

 あれって、よく考えると、すごいシュールと思いませんか。

 テレビで見ていても、実に多彩な音楽が使われていますが、はっきりいいますと採択される基準は、メロディーの「強さ」のみ。

 古今東西の「強いメロディー」ならなんでもOKなわけで、甲子園で流れる応援歌というのは、オールジャンルのメロディーの中でとりわけ強いものが勝ち残ってきているわけですよ。ちょっとずつ進化発展してきたからそんなに違和感を感じないですけれども、プチシルマとか流れたら、相当シュールな光景であるということに気づくわけです。改めて考えたら相当おもしろい。大人数で大真面目にプチシルマのメロディーを吹いている。炎天下。すごいよ日本は。

 昔ナンシー関が、大正琴について書いていましたね。どんな曲も単音のメロディーで集団で弾くという恐るべき大正琴ワールド。すべての音楽が大正琴に還元されうる恐ろしさとまぬけさ。

 でも、この野球応援だって、本質的には同じじゃないかと思う。

 

 ところで、そういう意味で野球の応援、地方色も出ているし、さまざまな工夫も垣間見えるので、興味深いといえば興味深いのですが、実際、あれをやる必要なんてあるのでしょうか。

各校がやっている『創意工夫』にしたって、ああいうブラスがあるという大前提の上で、どう魅せるかということです。つまりは戦術論。そもそも、ああいう応援が必要かどうかという疑問は決して発してはいけないことになっている。つまり、戦略的な考察はないということです。

 こういう戦略的視点の欠如って、日本という国で繰り返し起こる弊です。我々日本人はこのことで随分苦労しているはずなのに、一向に改まる気配はない。

 例えば日中戦争から太平洋戦争も、全く同じ構造で。

 軍がある、軍備を縮小するなんてとんでもない。予算をつけにゃならん。縮小するわけにはいかんで、戦争をする。もともと不純な動機(帝国主義的な拡大主義というものが純粋かといわれると難しい話ですが)で、政治的な要に迫られた戦争でないから、終わりの線を引くこともできず、ずるずる戦線が拡大して、負けてしまった。今だって、地方の公共事業で獲得した予算を死守するために、誰も益することがないような施設を作ったりとかいうのもそうだよね。本質的には何も変わらない。

 高校野球の応援のブラス。

 確かに、戦争や箱モノ行政と違って応援には実害はそれほどないけれど、やはり本質的には同じといえます。溌剌とした高校球児に感動した吹奏楽団員達が、手弁当で駆けつける……なんて、ナイーブなストーリーは建前で、ああいう『応援』は厳然とした経済活動のサイクルに組み込まれているわけです。吹奏楽の予算とか。

 もう後戻りは出来ないし、その規定路線の中で色々と創意工夫が行われ、進化した挙げ句が今の「超メロディー主義」的な状況です。それはそれで日本の文化の作り出した一つの到達点だとは思うわけですけれども、大勢の高校生のマンパワーを結集して作り上げられた成果があれかいと思わないでもない。同じマンパワーを別のことに使えば、もっと別な達成が得られたのではないかと。

 僕が知っている限り、一度だけこういう応援が静かだった時がありました。そう、阪神大震災の後の春の選抜、あの時は、なんだかよくわからない「配慮」のせいで、鳴り物が禁止になっていましたが、結果的に、なかなか良い雰囲気ではないかなと思ったものでした。僕は、春の選抜に関しては、そういう静かな形態がずっと続けばいい(そして、それこそが、阪神大震災を忘れないということではないか)と思っていたんですけれども、現実はそうもいきませんでした。一度走り出した車をとめることは出来ないのです。特に日本では。

 多くの吹奏楽団員を敵に回す発言をしますが、あんなのやめればいいんだ。