半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

団塊の世代の「アタリマエ」は子供を傷つけている

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2021年 広島県

コロナ、コロナ、コロナ(SARS-CoV-2, Covid-19)……
住んでいる広島県も緊急事態宣言に入った。
が、保守的な気風なのか、当地はGW前からまずまず出足が鈍っていたせいで、周りの地域よりも感染者は少ない。

入院数と退院数が釣り合って拠点病院入院患者の伸びは鈍い。
なんとか踏みとどまっている感じ。
このままピークアウトしてくれればいいのだが。

「俺ワクチン打っているし、闇営業している飲食店ないかな…」と腹黒いことを考えるが、そこまで会食したいわけでもなく、家でゴロゴロしている。

コロナ禍で

当たり前の話だが、コロナ禍で、出生率は激減したそうだ。
なんでも国の少子高齢化の時計は18年早まったとか。
news.yahoo.co.jp

すでに危機的状況にあった日本の「少子化」は、この一年余のコロナ禍でさらに深刻の度合いを増した。出生数が大幅に減少したことにとどまらず、出産と深く結びついている婚姻件数が大きく減ったのである。このまま進めば、間違いなく悪夢のような未来がやってくる。

実は高齢化の領域でも、高齢者は外出を手控えたため、フレイルが悪化し、暦年齢より高齢化が進んだ。
hanjukudoctor.hatenablog.com
定量的なデータは今はないが、いずれどこからかデータはでるだろう。

急速に、少子高齢化は加速している。

そりゃあ無理もない。
コロナ禍で婚活するのも、妊活するのも大変だ。
婚活はソーシャルディスタンスの中でかなり困難なはずだ。

妊活だって里帰り出産は県外移動でアウトだし、孫の子育て応援に祖父母も行けない。なにより妊娠中にコロナにかかったらどうする…という恐怖はあったよね。未知の感染症なんだから。
(だから、コロナあけには出生率は多少戻すかもしれない)

ただ、私は1974年生まれの団塊ジュニア世代。
氷河期〜ロスジェネ世代の友人も多い。
独身の知り合いも当然多い。

親は「子孫を残すのは当たり前」という感覚で、子供に期待をする。
女性の場合は「タイムリミット」を心配して、また変にプレッシャーをかける。
コロナ禍は、そういう焦りによる無駄な衝突が、あちこちで起こっている。

それに深く深く傷ついている知人は、結構多いのである。

でも、結論からいうと、人口ボーナス期の中でも、昭和の戦後〜高度成長期の感覚の方が全人類史の中で特殊すぎたのでは?と最近僕は思っている。

前近代

人口が定常状態であった前近代には、長子相続制度であれば、次男以下は子を成さないことも多かった。仮に子ができて一家を成しても傍流となる。
家督を相続しないと、そのままだと食えないので江戸など大都市に流入するが、江戸の街は低出生率で周囲の人口吸収装置として作用していた。
江戸期のような安定でない時代(例えば戦国時代)は戦乱による死亡・家系断絶は一定の確率で起こる。子孫を残す確率は増えるかもしれないが、殺されてしまう確率も増える。

乳幼児死亡率が高い分、子育てそのものは今より多かったかもしれないが、子供が成人し、さらにその子が子を成し……というのは当たり前ではなかった。
結局その社会が食わせられる人口分の椅子取りゲームなのだ。

ある年代の若者が100人いたとして、その子が成人まできちんと到達することができる確率はどれくらいか?
ある年代の若者が100人いたとして、その直系子孫が100年後に居る確率ってどのくらいなんだろう?*1

戦後、国土の荒廃と戦争による若者人口の一時的な減少もあり、そして戦後経済成長で社会の余剰資本は急速に拡大した。空いた余裕の帰結としてベビーブームが起こり団塊世代が出現する。
団塊世代では、多くが結婚し、多くが子を成すことができた。
 でもそれは拡大しつつある社会資本の中での奇跡的な事態であるように思う。

数量的な推定はまた考えてみたいが、結論からいうと昭和20年代〜30年代の日本は、人類の全歴史を通じて一人の人間が自分の子を為すことができる確率がもっとも高かった時代だと思う。
きちんと勤めてさえいれば、暮らしはラクになり、お見合いなどの社会装置もあり結婚をすることができた。

昭和の団塊世代の親世代は、自分たちの常識が普遍的なものだと思っている。
しかし、そんな時代こそが、人類史の中で稀有な状態であった、ということは強調しておきたい。
彼らの常識こそ「非常識」なのである。

でも団塊の世代の方々は、あまりそうは考えず「自分たちは戦後の焼け野原で必死に努力した結果、幸せを手に入れた」というシナリオで物事を考えがちだ。
自己肯定のためには次の世代にも同じようなライフスタイルであってほしいと思う。*2
「結婚して子供を作って家庭を作るのが当たり前」という彼らの社会通念を子供に所与のものとして押し付けがちになるのはそのせいだ。

だが前提条件は著しくかわってしまった。

しかし結果的に結婚せず、子供を作らないことを「失敗」と評価されてしまう。*3
親からそういう風にみられりゃ、そりゃ深く傷つくよな。
そういう同世代はかなりいる。
我々の世代の自己肯定感の低さはそういうところからも出ているのかもしれない。

今後どうなるの?

そうはいっても、少子高齢化はいかんいかん亡国だ、と私も思っていた。
が、北欧とか韓国はじめアジア諸国でもここ最近少子化はとめどない勢いで進んでいる。この傾向は全世界的潮流である。

実際、年金や介護の問題、目先の社会継続性から考えると、少子高齢化は大問題だ。
が、もう少し視野を広げると、人口は減って当然じゃないか?と思う。

まずはエネルギー、環境問題。
70億の人口が現在の先進国の生活水準で生きることは明らかに不可能。
でも、たとえば7億人だったら、多分なんとかなる。

日本だとしたら、1億人を養うことはできない。だが1000万人なら、今の水準、もしくは今よりも豊かな水準で生活ができるかもしれない。

もう一つは仕事の問題。
AIで大多数の人が職を失うかもしれないとか、警鐘されているじゃないすか。
本当に少子化って大変なの?
少子化の方がいいんじゃないの?
それなら。

昔は世界大戦とかで億単位の人間が死んだりした。
けど、どの国もあからさまな産児制限すらせずに、緩やかに人口を減らすことができるなら、それはむしろ戦争による人口適正化よりはマシなんじゃないかなあとは思う。

将来

そう思うと、どう考えても、今の少子化が覆ることはない。
合計特殊出生率で 1〜1.2くらいで、2,3世代続くんじゃないの?と思う。
そして日本の人口は2200年代に2000-3000万くらいに落ち着くんじゃないか。

最近の僕は、そういう風に確信をもって考えるようになった。
それがどう考えても常識的なゴールで予想される未来だ。

出生率が伸びない」シナリオだと実際それくらいの数字になっている。*4

市井の一個人としては、この現実を前提として生活する必要があるだろう。

たとえば、自分の子供がさらに次世代、子供を為すことも、それほど期待してはいけないんじゃないか。
少なくとも重圧を与えてはいけないのではないかなあ。
人口が十分の一になるなら、たとえば、今従兄弟も含めて 10人くらい居る家系で、一人の家系しか生き残れない。
子を作って安心したって、孫は作れないかもしれない。多分、それくらいの覚悟と想像力は必要だと思う。

自分の老後も、介護の労働力が十分にあるとは思えない。
その頃にはロボットが移乗とかはしてくれる世の中になってたらいいけど、無かったら今の北欧と同じで、寝たきりはそのまま死なす社会になるのかもしれない。*5

「自分の子孫を得るのが動物の本能だろ」という考えも、また真実だとは思う。
が、人類としての種の存続は、チーム戦でいいんじゃないかとは思う。
そういう考え方にしたほうが、しんどくないんじゃないかな。

* * *

少なくとも団塊の世代の専業主婦から発せられる
「結婚しないの?子供つくらないの?それが当たり前でしょう?」
という言葉は、人類史を俯瞰しても、極めて特殊で幸福な状況下の特殊な考えであると思う。

この考え方で、この社会状況では、幸せにはなれない。
ではどうしたらいいのか。

要するに「自分の血筋が絶える」ということを社会的に受け入れる土壌が必要なのではないか、と思うのだ。
独身の人はもちろんそうだし、子供がいる人(僕もそうだ)も、孫はあきらめないといけないかもしれない。
そういう覚悟が必要となってくる。

そう思うと子育ての相対的な意義はかなりゆらいでくる。
人生で子育ては極めて大事なことだとは思うが、実はせいぜい10年長くても20年程度のことだ。
我々は子育てに価値を偏重しすぎてはいないか。
子育て以外に「我々はなんのために生きるのか」という命題に答えることが難しいから、子育ては称揚されるのだけれど。

*1:数値化するのは人口動態がきっちりしていないと不可能なので、前近代では推測値以上のデータにはならないだろう

*2:学園紛争とかも含めると、団塊の世代は自分たちの上の世代を否定しまくっていたのに皮肉なものだとは思うが

*3:あからさまに言う親もいるし、言わないけれど心情的にそういう感覚を秘めている親もいる。どっちも傷つく。

*4:まあ私の経営する法人は産休育休諸制度、有給休暇も取りやすいので、職場内の再生産率はけっこう高いのだけれど。

*5:個人的にはMatrixの繭みたいな生命維持装置に繋がれて生かされる気がする