コロナウイルス(COVID-19, SARS-CoV-2)騒ぎで、国も、それ以上に世界中が大騒ぎになっている。
しかし学校がこのタイミングで休校になるとは思わなかったな。
* * *
安倍内閣の今回の緊急決定は、本日時点では、
- 小中高の休校要請、
- 中国と韓国からの渡航者(帰国者含む)からの入国制限と隔離期間の設定
こんな感じだ。
私は医療従事者なので、感染対策をしている厚生労働省以下感染対策で頑張っている人たちの考えを尊重したいと思っているのだが、
今回の中央政府の提言は「遅い」わりに「強い」とは思った。*1
そして「強い」割に、的外れ感もある。
せめてここまででなくても2月中に何らかの対策を打っておけば、もうちょっと有効な策になっただろうに、とも思う。
エピメテウスにもほどがあるだろ。*2
ただ、じゃあこの政府の策が、悪いか、といえばそういうわけでもなくて、それなりに意味もある。
それは日本が、「ハイコンテクスト文化」だからだ。
* * *
社会や文化のコンテクスト=文脈。
コミュニケーション環境を理解する概念として、アメリカの文化人類学者であるエドワード=T=ホールが唱えた「ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化」という概念があります。「コンテクスト」とはコミュニケーションの基盤である「言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性」みたいなこと。
要するに「暗黙の了解」みたいな部分がどれだけあるか、という話。
ものすごいわかりやすくいうと贈答品とかで、
「つまらないものですが…」とか、日本人は謙遜するじゃないですか。あれは、そういう文化が共有されているから通用するのであって、ローコンテクスト文化では、言葉は字義通りに解釈して「そうかつまらないものなのか」と受け止められてしまう。
ちなみに日本の国内でもコンテクストの高い低いは地方差があるけど、もっともハイコンテクストな文化は京都だと思う。
「ぶぶ漬け食べていかはります?」が、もうそろそろ帰ってくれないかな、なんていうのは、その文化圏にいない人間にとっては理解の範疇を超えている。*3
ローコンテクストな文化環境では、言ったことはそれがすべて。
それ以上に膨らませて解釈されることはない。
ある種さっぱりしている。
特に「察する」コミュニケーションが苦手な人間にとっては、ローコンテクスト文化の方が言語の壁があってさえも過ごしやすいだろうな。
* * *
ハイコンテクスト社会の日本。
「小中高をこの年度末の時期に二週間休校させる」というアナウンスをした、というだけで、
政府は相当な意思決定をしたぞ。これはただごとではないぞ、と受け止めた。
実際に、小中高を休校させるという決定が、この感染症の蔓延に対して、有効な施策かどうかは、学者の間でも見解の相違はあるのは皆知っている通りだ。
だが「小中学校を一斉休校させなあかんレベルの決定をしたんだ」という衝撃が伝わると、あら不思議、会社でも地域でも、その意思決定の「強さ」というものを勝手に「忖度」して、みな自分たちが取りうる意思決定の中で、最大限この感染症に配慮するように全振りした。
結果、各地のコミュニティイベント、ライブ、会合、新年会、歓送迎会などを「勝手に」「自主的に」中止することになった。
自粛の嵐。
見事なもんだ。
ある種感染症対策としては的外れでもなり、タイミングの悪い指示であったても、その意図を「忖度」して、全国民が一斉に「自粛」に向かった。まるで、魚群や鳥の大群が、一斉に向きを変えるような様は壮観だったと思う。
そして、それは、多分結果的には感染制御にはいい風に作用するだろう。
そう。日本の社会は、一人のボスが指示をしてそれをトップダウンで浸透させるようにはできていないのだが、
鳥の群が向きを変えるような、全体行動の団結を時に見せる。
まあそれがハイコンテクスト文化とも言えるだろうし「同調圧力」というやつでもある。*4
だから、この自粛ムードへの流れはいかにも日本的なプロセスであるなあ僕は感じた。
他の国であれば、もっと納得の行くような説明と施策を提示しないと、こういう行動にはならない。
もちろん、コンテクストに従わないアウトサイダーは居るわけだが、感染症の厄介なところは、そういうごく少数のアウトサイダーが皆の努力をめちゃめちゃにしてしまうところだけどね。
* * *
ちなみに、エドワード=T=ホールによれば、中国人は日本人に次いで「ハイコンテクスト文化」に属している。まあ、ホールいうところのコンテクストは個人のコミュニケーションに関するものなので、前述した日本の状況はハイコンテクスト社会、とでもいうべきものなんだろう。中国人は、ハイコンテクスト文化に属するけれど、ハイコンテクスト社会ではなさそうだ。
だから、行動の自由さや共同体の監視や規範からの逸脱という意味では、中国人は我々以上にしたたかで図太い。
だが、そういう彼らには、よくしたもので、この自由な現代には考えられない強権と強制力を持った独裁政権がある。おまけにふんだんな科学力も組織力も資金力もある。結果的には難局を乗り切りつつあるように見えるし、この件に関しては彼らは自分たちの政権に感謝するべきだろう。
中国は正攻法のマネジメント。あちらの方が正統派だ。
日本の「ハイコンテクスト」な社会体制で乗り切る手法は、やっぱりガラパゴスなんだろうな。
* * *
そうこうしているうちに、イタリアをはじめとした欧州、中東・米国へも感染は拡大している。
あちらは相当なローコンテクスト文化、ローコンテクスト社会である。
中国よりも中央政府の権限も強くない。
この感染を乗り切るための共通認識をどうやって作っていくのか、見守りたいところだ。
まあ、ウイルスの挙動や感染実態もある程度わかってきたので「後医は名医」よろしく、うまくやるかもしれないが。
* * *
日本についていうと、むしろリーダーシップとマネジメントを必要とするのは、この警戒態勢の解除において、だと思う。
鳥の群れのように方向転換したところまではよかった。そこは日本的なお家芸でなんとかなると思いたい。
ちょっと初動は遅かったけど。
ただ、これを続けていけば、経済が死ぬ。適切なタイミングで方向転換できるかどうかには、政府の適切なマネジメントが必要ではないかと思うが、それがうまく為されるかどうかについては、大いに疑問だ。
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*1:病院で医者などやっていると重症な患者さんの親族が、遠方にいて後からくる家族に限って、極端な要求をしたりするのに、少し似た感情を抱いた
*2:ギリシャ神話の話ですけど、知恵の神プロメテウス=先に考える人の意、その弟エピメテウス=後に考える人。まあつまりエピメテウスというのは、このくそ●鹿野郎という言葉をオブラートに包んだ言葉。僕はバカにはわからないようによく使います。
*3:なんか最近はネットとかでも京都の人の言い方、みたいなのよくありますよね
*4:私にはミュージシャンの友人も多いのだが各地の零細ライブハウスやジャズマンが興行を中止せざるを得ない状況に追い込まれているのは、これは日本的な「ハイコンテクスト社会」の弊害だと思う。