半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

「新たな病床機能の再編支援について」

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2020 衆楽園(津山)

コロナで日本中がてんやわんやしている最中、実はこんな提案が厚生労働省からでていた。
あまりブログやSNSでも話題になっていなかったが、募集はもう終わったので掲載してもいいだろう。

<新たな病床機能の再編支援について>
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000683711.pdf

読んでいただければいいが、病床削減をすると、その分お金だしますよ!というめっちゃ明け透けな提案だ。
一ベッドあたり、100万〜200万。
あとは病院間の統合によるベッド数削減や、債務整理などに関しても補助がでるという計画で、地域の病床再編を支援するという提案だった。

高橋泰先生が「今後の日本の医療は撤退戦だ、信長が浅井朝倉連合軍と戦った時のようだ。すなわち金ヶ崎の戦い=「金が先」」なんて言っていたけれど、大筋はそういう考え方に沿っていると思う。今後病院の数は減らしていかざるをえないし、集約化は必須の流れだ。
hanjukudoctor.hatenablog.com


実際人口減少地域では、どんなに経営努力をしたって病床はなかなか埋まりにくくなっているのは事実。
10年後はさらにひどいことになる。
どうせ使っていない病床であれば、今こうやって返上して、コロナで毀損したキャッシュフローに当てても…と考える医療機関はあってもおかしくないだろう。*1

今回の計画の予算は約80億円。
一ベッドあたり 100~200万円(稼働率によって違うらしい。えげつない)てことは4000-8000ベッドくらいをまずは削減対象にするってことか。総ベッド数は一般88万、すべて合わせて150万床弱なので 0.5%くらいの量だ。
まずは観測気球として、地域のお手並拝見、ということなのだろう。
この提案に対する手上げの様子をみて、来年度以降も同様の政策を決定してゆくものと思われる。

コロナ下で、「医療体制の逼迫」という中での提案というのが、ややイメージが悪いが、そもそもこういう休眠病床は、今逼迫している高度急性期もしくはアクティブな急性期とは性格の異なる病床で、コロナ患者を受け入れる能力を有していないことが多い。*2
なのでこの部分を整理・削減してゆくことと、コロナで病床が逼迫していることとは、矛盾しない。
こういう経営効率の悪いところを切り捨て、需要のある方にリソースを分配していく方が、おそらく国全体の利益にはなるだろう。

ただし、地域格差や地域偏在などについては、悪化するのは間違いない。

それにしても、往時は、ベッドは病院同士で競り合ったり、これよりは高額なお金で売買していた時代が、嘘のようだ。
時代の流れを慨嘆するね…
大体一ベッドに患者さんを一日入院させていると、療養型であったとしても2万、地域包括ケアであれば3〜4万、急性期病棟であれば6万くらいの医業収入になる。病床利用率率を低めに(例えば60%)見積もったとしても、一年で2万x365x60%=438万は収入になるのだ。
それを返上して100-200万?一時的なお金だぜ?まあふざけた話にも聞こえる。
が、病院というのは旅館業などと同じく、固定費の多く、利益率の低い業種である。平均の利益率1-2%くらいなのだ。
まあ返上を考えているようなところでは万年赤字に違いないから一ベッドあたり得られる「利益」の数十倍の現ナマを掴ませてくれる……と考えることもできる。そう思うと、この提案は「ケリ」をつけるのにはいい提案なのかもしれない。
葬式代くらいにはなるやろ…という感じだ。

それにしても病棟返上は、縮小均衡そのもので、未来のない話だ。
ただ、地域事情に未来がないのだからしょうがないのかもしれない。


半熟三昧:

『皇帝たちの中国史』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
気がつくと、12月ですね。はー……
12月は例年あまり調子がよくないのですが、今年はなおのこと。

*1:実際まあまあの応募が地域によってはあったらしい。10月に発表されて、締め切りは11月末…理事会も社員総会も経る方針決定だろうに、みんなまずまずのスピード感だと思った

*2:こういうやや低機能の病床を、軽傷者のコロナ収容に当てられるのであれば、医療逼迫とはならないのだが、なかなかそうはならない。それぞれが民間病院であり、号令のもと、診療のあり方を強制できないからね。本当は、ホテルに収容するよりは、最低限の医療監視体制は備わっているので、そういう形で国民の福祉に貢献できていれば、このような存廃を問われる事態にはならなかっただろう