半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

診察での会話

診察室では、とりあえず会話の糸口となる、どうでもいい話をします。

まあ、よくあるのは天気とか、天候とか。

* *

ところで、1月には大寒波がきたりしましたが、その後、一進一退しつつだんだん暖かくなってきました。

このごろはさすがにあたたかくなってきました。先週の東京マラソンの日、僕も東京に出張だったけど、冬用のコートもウールの厚いスーツも、もう今シーズンは最後かなあと思いましたね。

そんなことを踏まえて、昨日の外来では

「いや〜なかなか暖かくなりませんけど、最近はさすがに暖かくなってきましたね〜」

みたいなことを言うていたわけです。まあそんなどうでもいい話ですから、そこから話は広がりゃしませんが。

そんな感じで午前中の外来を終え、午後になってもおんなじ調子で話をしていたら、

ある患者さんが「いやー先生、今日は陽は照ってるけど、風はけっこう冷たいよお」とおっしゃるじゃないですか。

窓から見えている陽光はぽかぽかしているけど、確かに外に出たら、結構肌寒い。部屋の中だったからわからなかった。

あれー?!えー?

じゃあ午前の外来の患者さんは

「あーあの先生トンチンカンなこというてるわ〜、まあええやろ」と許してくださっていたのか……

みんなごめん!

* *

 上述のごとく、私は外来の患者さんに恵まれているな、と思う。

 みんな優しいのよ。僕の患者さん。

 人生の含蓄を教えてくれる人、私の知らない世界のことを教えてくれる人。病気になったときの心のゆらぎ・不安から、症状も細かく教えてくれる。おかげで、医師になりたてでは教科書でしかわからないような病気の実のところを、患者さんからの聞き伝えで、だいぶ詳しくなることができた。

 簡単なことで、訊いてみりゃいいんだよ。

 患者さんは僕のこと「先生」なんて呼んでくれるけど、人生でも先輩だし、いろいろ本当に教えてくださるわけです。

 先生なんてとんでもない。

 もっとも、これは北風と太陽、みたいなもので、心を開くと、患者さんは心を開きかえしてくれる。

 心を閉ざした診療だと、やはり親密な交歓にはならない。

「患者はつまらない」という先生には患者さんはつまらない態度しかとらないです。

 そりゃそうでしょ。医者と患者を離れて、人同士でもそうでしょ。

* *

 勿論、そんなきれいごとだけでは済まなくて、すごく消耗するような外来もあるし、終わってから、カルテを壁に投げつけたくなるような(今は電子カルテだから、そういうことはできないけど)気持ちになるような診察もある。

 でも、自分に引きうつして考えると、多くの患者さんは腹も立てずに辛抱強く待っているし、辛いこと、痛いことにもよく耐えていると思う。

 「僕ならムリやなあ、偉いなあ…」と思う。

 そして、それを実際に患者さんに言っちゃう。

 多分、そこから、キャッチボールが始まるのかもしれない。

* *

 まあ、そんな超優等生なことばかり言ってないで、実利的なことを言います。

 例えば、まるで、相手の反対側からさかさ方向、つまり患者さんから見た方向に、すらすらっと完成度の高い絵を描く。

 かのごとくに、患者さんの知識に合わせて医学的な説明をする。そういう能力に関して言えば、僕はかなり得意な方です。医者になってその部分はかなりトレーニングしました。

 

 簡単な説明を望んでそうな人には簡単に。

 機序とか知りたい人には機序を詳しく。

 数字が欲しい人には数字を。

 そのあたりの当意即妙さ。このあたりの「合わせていく」能力はジャズの演奏の方法論に近いような気がしますね。