半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

建て替えの話(その2)

さて、病院を建て替えましょう、という話の続きですよ。

 続いたね。よかったよかった。

* *

 普通、新しく家建てましょうとか、そういうのって、夢ふくらむじゃないっすか。

 あれしよう、これしよう…

 大きな窓と、小さなドアーと、部屋には古い暖炉があって、真っ赤なバラと白いパンジー

 てなもんですよ。*1

 しかし、お金とか土地とか、そういう「ゲンジツ」と向き合ってみると、そういう夢的な要素って、結構しぼんじゃうもんです。

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 病院も同じで、おおざっぱに考えている時には、意匠を凝らした概観とか、めちゃ綺麗なロビーとか、そういうのを夢想しましたけれども、そういう安易な考えは、結構すぐ吹き飛びました。

 旧病院の隣にある駐車場の敷地に建てよう、という話になったんですけれども、まずこの用地が足りない。旧病院よりは床面積はとれるけれども、同じ病床数で展開したとすると、今は患者さん一人当たりの面積が広くなっていますから、病床が案外かさばるんですよね。

 昔の病院って、ベッドと詰所くらいしかなかったですけれど、今は早期の離床を促すために、患者さんがご飯を食べたり、座っていろいろ過ごすためのデイルームとかもあるし。

 うーん、たとえば、初代「ゴルフ」って、室内の大きさって、現在の同じくVWの1サイズ小さい「ポロ」と同じくらいなんですよね。それと同様に、この一世代でアメニティに対する要求の平均の水準がだいぶ上がってるんです。

 そうこう、それぞれに部門に必要な床面積を計上してゆくと、斬新な意匠性とか、そういうのを考えるどころではなくって。ま、早い話が「トウフみたいな建物」になります。なんっの面白みもない、四角の建物。

 もう狭小建築みたいな話です。柱と柱の間(スパン)を6mにするか6m30cmにするか、とか、そんなんで図面を引きなおしたり、いろいろしました。涙ぐましい努力を。

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 もちろん、個室率をどうするか、という話もでました。

 旧病院は導線も悪いし、患者さんのための場所も少ないし、古い作りで人気がなかったのですが、個室が少ない、というのも常に不満の上位を占めていたからです。

 個室が増えると、当然床面積は増えます。その分患者さんの満足度は高くなる。

 ただ、東京のたとえば聖路加のようなハイエンドな病院であれば全室個室が当然で、高い個室料も皆文句もいわず払ってくれます。でも中小地方都市で亜急性期の病床という当院のポジショニングの場合、個室を設定したところで、それを払える患者さんがどれだけいるだろうか…ということも考えなければいけなくて。

 今後10年~20年のこの日本経済下降局面では、この地方の顧客が今よりも裕福になるとはちょっと考えにくい。かといって、全室個室、差額ベッド代は無料、みたいな夢みたいな話ができればいいけど、そんなうまい話にできるわけもなく。

割と冷徹なそろばん勘定が要求されるところではあります。うちの両親は「今までここで長年事業させてもらった恩返しみたいなもんで、そんなに負担にならない病院、っていう方がいいよね。お金がなくても気軽に入れる病院っていうのが地域に対していいんじゃないかなあ」といって当初個室率はかなりおさえめにしていたんです。

 が、たとえば自分が入院する…と考えたときに、個室入りたい状態なのに個室入れないのはやっぱりストレスだろうな…と思うし。

やっぱり個室か否か、という問題は大きいよな、と思うわけです。

 

 それにMRSAノロウイルスなどの院内での感染が危惧される病気が発生すると、隔離が必要なんですが、旧病院では、そういう部屋にすら事欠くありさまで、4人部屋を無理やり隔離に使ったりして、効率がわるかったんですよね。

 そういうわけで、部屋を減らしてでも個室を確保した方がいいという話になりまして、結局92床から10床へらし、個室率30%というところに落ち着きました。熟考した割には大したことない個室率ですが、敷地面積的には本当にギリギリの妥協の産物ではあります。もちろん大部屋でもパーソナルスペースが侵害されないような工夫はしました。

 しかし郊外に建っている公立病院がうらやましいです。広さって、最大の武器であることを痛感しました。

 僕個人的には隅っこが好きな人ではあるんですが。

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 可能なら全室個室にしたいところではありますが、まあそれはかなわぬ夢でした。

 面積的にね。

 ゲンジツと折り合いをつけたわけです。


 

*1小坂明子「あなた」ですけど、青いじゅうたんを敷いて真っ赤なバラと白いパンジーを活けて……趣味悪っ!そんなお水っぽいセンスだから男に逃げられるんや、と思います。