今年はインフルエンザの猛威は、自分の担当している地域に関してはそんなでもないのだけれど、余所の話を聴いてみると、まあまあ流行っているという話もあるし、そうでもないという話もあって、今ひとつはっきりしません。
少なくともぼくに与えられた虫瞰的な視点では、今年はようわからん。ちなみに、鳥瞰的な視野では、例えば感染症情報センターの例数をみると、http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/infreport/infl06_07-14.pdf確かに累計は例年よりも大分少ないが、ちょっとずつ増えているようにも見える。
ところで、普通の風邪に関してですが、未だに点滴信仰というか、注射信仰というのは根強い。
風邪かもしれんという人がやってくる。ぱっぱっぱと手際よく診察して、きわめてポジティブに
「風邪デスネ!」
(http://app.blog.livedoor.jp/ningendojo/tb.cgi/50862670)
「では、薬出しときますね!」と元気よく告げると、
予想を裏切られたように、「あのう……できれば注射かなにかして欲しいんですけれども……」と申し出られることは結構あるわけ。
※実際、「風邪です」と言い切ることはなかなか難しいんですが。
医者は、風邪に、総合感冒薬だとか、咳止めだとか、そういうもんを色々出してはいますが、実は、どんな薬を出そうが、結果的には大して変わりません。風邪の診察で医師がすべき事は、患者さんが風邪だと思っているけれど、実はもっとしゃれにならん病気、たとえば、肺炎だったとか、細菌性髄膜炎だとか、甲状腺クリーゼとか、くも膜下出血とか、そういう適切な治療を施す必要のある疾患を除外するのが仕事の7割。あとは、何出そうが、出さないでおこうが、風邪という診断が正しい限り、どうだって同じ。
風邪を治す薬……というと、これが案外ない。
一応風邪薬の比較対象研究というのも、ないわけではないのだが、やはり死ぬ病気ではないが故に、どうも切れ味に欠けるのである。現時点では、風邪の時のビタミン剤補給や点滴が治癒に有効であるという知見はない。もちろん、ビタミン補給が治癒を遅らせたり邪魔をしたりという知見もないのだが。
前回の免疫「力」の話もそうですが、医学というのは、構造がわかっている部分が必ずしも多くはないんです。疾患によってはきわめて曖昧な根拠の元に行われているものも沢山ある。よくわからんけど、なんか薬使ったらうまくいく、という風な。
ともかく、ビタミン剤を入れた点滴の補充というのは、すこし時代遅れではありますが、それなりに行われている治療ではあります。
この辺の機微はサイト「夢見るかえる」>風邪に点滴(http://absinth.exblog.jp/1458923)が非常にわかりやすいです。僕も同意見で、医師として判断する限り、風邪の時の点滴の薬理的効果はすこぶる低い。
では、外来において、風邪の患者さんが、点滴してくれと言った時に、どうしているかというと、しますよ。点滴。
「そんなの意味ないです」とはいいません。
それはなぜかというと(続く)