半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

病院が消える日……なのかも


お久しぶりです。春の黄砂ってひどいですね。
黄砂なんだか花粉症なんだかわかりませんが。

さすがにやばいんじゃないか

報道ではあまりはっきりと直言しているところはないけれども、全国的に病院の経営がやばい。

もちろん、医療も介護も、原材料費の高騰・水道光熱費の高騰・人手不足などの悪材料がかさなり、うっすら全体的にイマイチなのだけれども、いわゆる入院施設のある「病院」が、きわだってやばいのだ。

もともと、病院は、たくさんの人員を動かして多大な資本投下によって運営するという、固定費変動費いずれもコスト高な業態ではある。
そして制度ビジネスである以上、価格も動かせない。
なおかつ、ここ10-20年、医療費の増大をできるだけ抑制すべく、儲かっている部分については2年ごとにさらにどんどん診療報酬を削るということを国はしている。21世紀に入ってからは、病院は利益率1-2%程度の生かさず殺さずになるように調整されているのが現状だ。
というのは、高度で高額な医療は大体病院でやっているからだ。だから国としては当然ここを抑えたいわけ。

そんな中、昨年6月の診療報酬改定では、一応医療全体で0.44%の増という形だが、支出は間違いなく増えてしまった。
3〜5%の物価上昇と、働き方改革による労働資源の制限を受けて、多くの病院が赤字になってしまった。

2023年は、まだコロナの補助金があったので、なんとなく帳簿上は傷が可視化しにくかったのだが、2024年はコロナ関係の加算や補助金が消えてしまったので、すとんと業績が落ちて赤字があらわになった、というのが2024年度ではないかと思う。

「生かさず殺さず」と思ってたら、思いのほか外部条件が悪くなりすぎて「あら死にそう?!」となっている、ということなのだ。

明日のお米もないんです

当院も当然ながら業績はよくない。
病床稼働率も限界近く上がっていて(つまり病院として仕事はきちんとしているわけなのである)、収入自体は去年よりもよかったりもする。
が、それでも黒字には届かず堂々の赤字。
めっちゃ頑張ってても黒字にならない。*1
うちは原則として赤字体質ではないので「うちでここまで業績悪いか…」とため息をついて周りを見渡すと、総じて状況は厳しく、資金繰りに窮する医療機関もあるようだ。

ちなみに、コロナの時にも、病棟閉鎖や外来閉鎖などで資金繰りが厳しくなった医療機関にはWAM(医療福祉機構)から、実質無利子・無担保の融資(ゼロゼロ融資)という制度があった。
無利子無担保で総額二兆円。
資金繰り困っている所は結構お世話になったみたいだけど、無利子とはいえ、返さなきゃいけない。返済は去年くらいから始まってるけど、こんなに業績が悪かったら、借金を返すどころじゃないわけで、シャレにならんらしい。

最近は運転資金が枯渇した医療法人に対する有担保・無担保の貸付みたいな新制度もあるらしいが、
これって一言でいえば「ごめんなさい、もう明日炊くお米もないんです」状態なのよ。
貸し付けたところで焦げ付く可能性も高そうだけれども、政策的にこうした融資を設けざるをえないようだ。

日本にとって30年続いたデフレ局面がインフレ局面に反転するのは久しぶりなもんだから、制度の変更にワンテンポ遅れて、このような実態が出来したんだと思う。おまけに政権基盤が弱いし、医師会などのロビィ活動もあまりうまくいってない。

僕の予想では、誰もが知ってる有名病院が、倒産、みたいなことが今年起きるんじゃないか。
まるで昔の山一證券の時みたいに。
そしてみんなが騒ぎ出す。
逆にいうとそこまで起こって、地域住民だけじゃなく日本のインフラの問題だぞ、みたいに世論のコンセンサスが得られないと、この事態は変わらないのかもしれない。

救済した、とて

ただ、中長期のトレンドを考えると、ここで赤字病院に巨額の資金をつぎこんで救済したところで、例えば5年後、10年後は人口動態が激変(基本的には人口減)するから、いまあるすべての病院が存続できる需要はない。

地域医療構想などの「合法的談合」によって病床を削減して緩やかに減少する医療需要に対応してゆくという「ソフトランディング」が本来は国の描いたプランだった。しかしコロナ禍とスタグフレーション寄りのインフレ、政権基盤が脆弱な現政権は舵取りができず、操艦不良により、ある程度ハードランディングを覚悟せざるを得ない事態になりそうだ。

「潰れてゴメン!でも10年後には君んとこどうせ潰れるしね!」って感じが、国の本音じゃないか。

ただ、いい病院が残るとも限らない

病院経営者にとってこのような環境は全くたまったもんじゃなくて、ゲロ吐きそうな気さえするけれども、国民に、特に勤労世帯とっては、悪いことばかりではない。
手取りが増える可能性がある。病院が減ると、医療費総額は減り、社会保障費は減少するからだ*2
その意味では健全な淘汰は業界のためにも必要でもあるとは言えるが、今回のような激変の場合、いい病院、必要な病院が潰れてしまう可能性もある。
残る病院がいい病院とも限らないのだ。

例えば、経営効率も悪くて現在あまり医療として貢献できていない地方の赤字公立病院は、財政補填されれば生き残る可能性もある。
逆に民間病院で世代交代した若手経営者の手により積極的な経営で急成長している素晴らしい病院は内部留保少なく資本回転しているのが裏目にでて、今回の改訂がかなり逆風になって、ショック死してしまう可能性だってありうる。

地球の歴史においては何度か大量絶滅というのは起こっているが、その時、環境適応性の高い種が生き残るとは限らなくて、絶滅するかしないかは結構運次第、という現象に似ているかもしれない。

だから、病院の淘汰を今回のような短期的な環境激変にゆだねるのは良くないンジャナイカナ……なんて思うが、しかし合理的に淘汰される病院と残すべき病院を分別する方が、救いがないような気もする。

要するに、ロシアンルーレットで殺されるよりも、「色々熟慮の結果、君は存続に値しないようです」と丁寧に説明されて殺される方がきつい。真実って時に残酷なもんだから。

*1:病院単体では赤字なのだが、他の業態すべて含めると黒字だし、内部留保もちゃんとあるので大丈夫ですよ。

*2:過疎地に住んでいる人、高齢者にとってはこの状況はマイナスに作用する可能性が高い