半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

Ubieの長短

2022, 愛媛。木漏れ日っていいよね

コロナ・コロナ・コロナ…
やばいやばい。第七波が終わり、束の間の休息と思っていたけれど、10月になって院内でのコロナ感染を初体験した。
コロナ患者の入院は診ていたけど、今までは奇跡的に職場内での感染などは病棟では回避できていたのに。
一旦このパターンに陥ると、コロナの感染力の強さには改めて瞠目する。マジ勘弁。

個人的にはつい先日オミクロン対応のワクチンを受け、意外すぎるほどしんどかったのであるが、
そんな個人的エピソードなどふっとんでしまう勢いである。

Ubie

https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/000685281.pdf

電子カルテの共通プラットフォームについては期待をもって見守っているのだけれど、個人的な考えでは、電子カルテは、堅牢な「ノート」としての機能のみに特化していただき、その上でいかに診療の質を上げるか、という部分は、サードパーティーによるモジュールを利用した方がいいんじゃないかと思っている。*1
確かにそうやって付け足していった方が、購入するエンドユーザーである病院のコスト総計は増えるんじゃないかとは思うけど、一社提供の電子カルテが、それらのサービスをすべて包含して開発するのは、無駄が多い。
なにより電子カルテ会社の開発スピードは遅すぎる。なので、さくっと割り切ってサーバーやOSの更新に対応した堅牢で高速のリレーショナルデータベースでさえあればいいのだ。電カルは。
PHRとかウェラブルデバイスとかウェラブルセンシングとかそういうやつはサードパーティーに任せて、囲い込まない方がありがたいと思う。

さて、Ubieである。
Ubieがなんであるかというのは、もうみんな知っていると思うけど、
AI問診システムのことだ。
出た当時(2017年)にはかなり騒がれ、話題にもなった。
www.hospital-management.jp

実はうちはUbie入れてもう3-4年くらい経つ。
Ubieは僕はすごくいいと思っている。
問診に答えてもらうだけで、昔の内科認定医・専門医の抄録みたいな形のテキストを生成してくれる。
時間がない外来診療の中で初診の患者さんの診察をして、きっちりカルテを書きたい時にすごく便利だ。
あと、紹介状をスキャンするとかなりの正確なOCRでテキストにしてくれるので、紹介状をカルテに反映させるのがすごく簡単になる。

もちろん、そうすると過剰な部分もあるので適宜トリミングしてつかう。

Ubieを使うようになってから、どちらかというと文章を書くより、削除する作業の方が増えるくらいだ。
欲をいえば、「ですます」文から「だ・である」文に一瞬で変換できる機能などがあるとありがたい。
少し前に搭載された、推測病名の各種疾患ガイドラインが見られるのは、不勉強な医師にはとても便利でもある。

Ubieを使ってわかった本質的なこと

そんな便利なUbieであるが、例えば二次救急とかで使えれば便利なはずだが、
夜間の事務人員配置の問題で、使えないのが現在の課題ではある。
(ただ、救急車による搬送には向かない。ウォークインはそこまで多くはないし)

たた、残念なことに便利だと思っているのは僕とコメディカルくらいで、年上の先生にはあまり使ってもらっていない感じだ。

Ubieは「きちんとカルテを書かなきゃと思っているけど、時間がなくてカルテ書けない」という
ニーズには有効なんだけれども、そもそもカルテの文字数を嫌う先生には今ひとつ魅力的ではないのだ。

電子カルテ以前にカルテ記載を始めた年代の先生は、基本的にカルテの文字数が多くない状態を好む。
それも道理。手書きカルテでは、詳細にカルテ記載をするのは不可能だ。
「三つ子の魂百まで」で、カルテ記載は簡潔である傾向にある。

要するに「カルテを書かなきゃ」という内発的動機がない場合、
Ubieはただのうるさいおしゃべりマシンに過ぎないのだ。

実際、カルテの文字数が増えると、弊害も増える。
カルテは「コピペ」+新規記載みたいな「うなぎのタレ」方式で書いている場合はそれなりに多いと思うが、
状態が変わっても、カルテ記載が変わらないために矛盾が生じることもある。
下手に書いてあるだけに、惑わせてタチが悪い。
*2

カルテの長短については、書くコスト、読むコスト、再調査するコストなどいろいろ個人差が大きく、
標準化が難しい。

Ubieで書いた初診カルテについても、実際に再診〜定期通院の状態には適しておらず再編集する必要はある(ちょっと過剰なのだ)から
Ubieは結構便利ではあるが、道具としては限界もあるのは事実だとは思う。

Ubieが最も有効なのは、Stock型ではなくFlow型の診療、つまり紹介⇄逆紹介型の基幹病院だとは思う。
ただ、でかいとこは、そういう予算つかへんわな。カルテ?当然自分で書くでしょ!みたいな感じだと思うし。
小さいところに勤めている年配の先生は、そもそもカルテの文字数増えるのを嫌う(世代間ギャップ)。

そこにUbieの売りにくさがあるように思う。

*1:電子カルテにぜひ搭載して欲しいのは診断時のレジストリ機能だ。電子カルテの平文のところにテンプレを容易に展開し、そのアウトカムも記載を義務化させることで、一般診療の全国的な統計化が容易になるはずなのだ。あれを初期段階で搭載していれば、日本の論文数の凋落ももっと防げたんじゃないかと思う

*2:さらに、カルテコピペを別の人に貼ってしまいわけわからなくなるミスもゼロではない。忙しい場合はなおさら。これを何度か経験したので、自分はカルテ本文に患者さんの名前の一部を入れることにした。情けない話だ