半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

『竹取物語』

2022年 福岡(大濠公園

コロナ・コロナ・コロナ…(Covid-19, SARS-CoV-2)
第六波が終息に向かい、GWなどの人流が増えても感染患者が減り続けていたのに、最近はまた上昇に転じているらしい。
この挙動、よくわからない。BA.5とか変異株?
わかりやすい因果関係通りにいかないのが、このコロナウイルスの玄妙なところ。
そんな不可解さが反ワクとか言われる陰謀論者の跋扈を許してしまうんだろうな。

目の前の情報しか信じなかったら、天動説だって反証するのは難しい。

竹取物語

以前に「ダメになった王国」「生殺与奪の権をゆだねちゃう人」というのを書いたことがある。
今回もそういう、身近にある寓話的な話。
hanjukudoctor.hatenablog.com
hanjukudoctor.hatenablog.com


今回は「竹取物語」である。
ja.wikipedia.org

まあ、かぐや姫のことですね。
珍しい宝物を所望して「持ってきてくれたら結婚しましょう」ってやつ。

実際に五人の公達は宝物を探すことはできず、悲惨な末路を迎える。
ま、ちょっと考えたら、そもそもありもしない宝物を所望して、体よく断ろうとしてますよね。
 本当にその宝物が欲しいんだったら、五人ともに同じ宝物を言いますよね。
 かぐや姫も、大きく括れば「京都女」なんだし、そういうまわりくどい断り方をする。

* * *

私は中小病院(急性期一般と地ケア)で内科をしていますけど、療養型に転院を打診することはある。
その時に転院先がいやがりそうだなーって時と、そうでもない時が当然あるわけです。

疾患そのもので手間がかかっても、医療区分が重い評価になるものはまあいいんです。向こうにとっても受け入れることで点数があがるし。問題は点数につながらないけど手間はかかる状態であるとか、家族関係などでこじれている方などの時に、条件付きで受け入れOKを出されることがある。「(薬剤代が包括なので)サムスカの処方がとれたら」とか「ここまでのADLであれば」とか。

しかし、こういう条件を満たすよう随分苦労して調整して「できました!」と向こうに再打診しても、改めて断られることが結構ある(7:3くらいの確率)。
折悪しく地ケアの入院期限の60日ギリギリで断られたりすると「詰んだ…」って感じになります。
でもこれって要するに、向こうにとっては「断わるための理由」であるのに、こちらが「受けいれられるための条件」と認識する行き違いなんですよね。
KYなのはこっちか。

まあ、療養病床は、地域的にもベッドが潤沢というわけでもなく、また回転も緩やかなので基本的には満床で、空きはぽろぽろとしかでない。療養病床は「モテる」側なんですよね。
何も難しいけどおいしくない患者さんを選ぶ必要なんてないわけです。

でも、基本的には療養病床って、外来からの直接入院ではなく、患者さんを紹介してもらわないと病棟は埋まらない構造になっている。従って、我々のような病院からの要請を無下に撥ね付けるわけにはいかない。

「今後も良好な関係を保ちたいが、この患者は引き受けられない」みたいな時に、療養病床の医療機関はやんわり断らなきゃいけない。
だから「竹取物語」的な断り方をする。
ただ、本当に「条件付き受諾」で、条件がクリアできて受け入れられることもある。その辺の見極めが難しい。

まあ、その辺はソーシャルワーカー同士の阿吽の呼吸よね。
脈ありの「条件付き」か脈なしの「条件付き」かはなんとなくわかるらしい。
ソーシャルワーカーに「別の行き先探した方がいいの?」ときいて方針を変更しています。

「条件付き約束」に拘泥してもしょうがないし。


* * *

同じような図式は、入院している高齢者と家族という関係でも起こることがある。

入院して自宅退院したいおじいさん。施設は絶対イヤ。
だけど、家族は絶対自宅に帰ってほしくはない(介護的に無理な場合もあるし、おじいさんがもうめっちゃ暴君みたいな人でとても付き合ってらんない、というパターンもある)。
みたいな時には、家族はよく「これこれができるようになったら自宅に帰れるよ」みたいな言い方をすることが多い。「家族が断った」みたいなのだと、おじいさん、怒り狂うから。
無理めの目標を提示するけど、案に相違しておじいさん、血反吐をはくようにリハビリして、家族のおっしゃった条件をクリアすることがある。

この「竹取物語」どうなる?宝物、公達がゲットしちゃった!って感じ。
けど、家族としてはやっぱり自宅には帰せない。
なんてなっちゃったら、もう大変。
おじいさんは怒り狂い、タタリ神のようになってしまうこともある。
『先生うまいこと本人が納得するような帰れない理屈でっちあげてください…』
えー? できねーよ! (ま、するけど)

* * *

竹取物語」的な図式はしばしば発生する。
「この条件がクリアできたら」みたいな付帯条件が、Yes/Noをはっきりしたくない関係性のもとで発せられた場合、その条件が、ほんとうに生きているのか、死に筋なのかは、やんわりと察しないといけない。

竹取物語」的な断り方は、まあずるいかずるくないかっていえば、ずるい。
ただ、そういうずるい断り方しかできない、構造的な問題がある、ということなのだろうと思う。