半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

終わりの始まりなのか、新しい日本の門出をみているのか。

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台風の被害、
千葉県であれほどひどい被害だったとは。
停電している地域の方、本当にお疲れ様です。

狭い地域の強い災害というのは、どうしても全国的な共感が薄くなってしまうところはある。
現在も停電地域の当事者の方々は、受けた災害のひどさのわりに報道のテンションが高くないことを腹立たしく思っておられるのではないかと思う。
というのは、去年の広島県の水害の時、僕らもそうだったから。

一番ひどいところには報道機関もSNSの投稿も難しかったりするので、速報にのらないのだよな…

* * *

電力の復旧には二週間くらいかかるということだ。

数々の災害で繰り返し言われていることだが、高度経済成長期に敷設されたインフラの老朽化が進んでおり、災害が来るたびに老朽化したインフラは壊れやすくなってゆく。そういう場合、応急処置では済まなくて、本格的なリプレースをやらなきゃいけない。お金も時間も結構かかる。

まあ千葉県だし、いずれ高架電線も復旧されるだろうとは思う。
でも、もし夕張市だったら、どうだろう?

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外来での患者さんに、インフラ関係の土木やっている人がいるのだけれど、本当にあちこち駆けずり回っていて忙しそうだ。
そのせいで、よく外来をすっぽかすのだけれども、仕方がないなあとは思う。
(でもこっちとしては薬切らしたらいけない類の病気なので、悩ましくもある)
その人がいうには、来年・再来年先まで仕事はびっしり埋まっていて、やりくりのつきようがない。
しかも、去年の水害で、あちこち土砂崩れもさらに増えた。
マンパワーは有限なので(そして多分予算も有限なので)、過疎地はどうしても後回しになる。

実際、我が地域をカーナビで見渡してみても、山間部においては県道レベルでさえも、通行止めの部分がちらほら。
谷にある集落に入るメインの道はさすがに治っている。
でも、そこから山越えで隣の集落にいくような山道は、治っていない。
水害から一年以上経つけれどそうだ。

 そして、多分、集落の「限界集落」の程度にもよるだろうが、車が通れないままこのまま永久に放置される道はありそうな気がする。

 多分、5年後、10年後には、そういう状況はさらに進み、交通網は、交通「網」じゃなくなっていく。
 点と点は結ばれ、全く孤立した点はないだろうが、隣り合うすべての点同士を結び格子状に移動する自由性は担保されないだろう。
 すでに、地方はそうなりつつある。
 関与する人口が少ないし、その人たちも「しゃあない」と思っているから問題にもならない。

* * *

 電力についても同じことは言えるだろう。
 工業地帯や住宅密集地に電力を供給しないということはあり得ないから、鉄塔は復旧するだろう。

 でも、例えば、20km先に20戸くらいしかない孤立した集落があったとして、そこに電線を引いて電力を供給することはどうだろうか?
 余った土地に太陽光発電パネルを置いて自前で供給する方が、かかるコストは少ないだろう。
 もしくは中規模の天然ガスのジェネレーターを置いてもいい。
 そもそも製造業そのものが、垂直統合スケールメリットの時代から、水平分業の時代に移行しつつある。
halfboileddoc.hatenablog.com

 交通「網」は孤立した点があることは許されないだろうが、電力については、小規模の発電ユニットさえあれば、点は孤立していてもいい。
 その方がコストはかからない可能性は十分にある。
 千葉県であれば、たとえ突端の館山であったとしても、送電のメリットが上回るとは思うが、では島根県鳥取県だったらどうか。
 あそこまで人口密度が減ってきたら、過疎地に電線を引く損益分岐点は、かなりつり上がってくると思う。

 10年後は「スマートグリッド」どころか、グリッドの中に入らない地域が2〜3割あってもおかしくない。

 だが、別にそれでいいと思う。
「すべての地域に電力が普及しなければいけない」というのはその通りかもしれないが、すべてを中央から供給する必要もないのだから。
 過疎地は自然エネルギーがふんだんにあるだろうし、むしろそこから他所に売れるくらいになったら、電線が敷設されるのかもしれない。

* * *

 高度経済成長の時代には、すべての地域はアスファルト舗装された交通網で整備されてしかるべきであるし、すべての地域が送電網でカバーされ、すべての河川は大雨の際に河川災害が起こらないようにケアされる必要があった。

 だが、これらの命題は所詮ドグマにすぎない。
 田中角栄がどんなに頑張ったって、国土改造計画をやったって、結局は田舎の経済発展はできなかった。
 日本の人口動態には勝てなかった。

 だが、ドグマから解放されて柔軟に考えると随分風通しもよくなる。
 交通は辿りつきゃいいし、電気も形はなんであれ使えりゃいい。河川は、本当は洪水がおこらないようにしたいところだが、洪水で死ぬ人、流される家がなければいいだけのことだ。その代償として当然危険な地域に住む自由は失われるけれど。

 でもそうやって荒れ果ててゆく日本の山河は、案外美しい。
 里山から、原生林化してゆくのは、一抹の寂しさはあるけど、30-40年後は、アジアの他の国々は環境消耗が激しいだろうから、美しい山河を持つ我々の国は他国から羨望を持って見られる可能性だってあると思う。
 山河が復活すれば、近海漁業だって復活する可能性もあるしな。