半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

「リーダーシップ」とは

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ここ最近の出張ではランと食事我慢で、出張中のカロリー収支がなんとかマイナスになっています。…たぶん。
私の病院では、毎週、朝礼をしています。
……日本的企業の悪癖ですね(笑)
みんなの前で、自分は二週間に一度なんかしゃべっています。
この朝礼の内容のエッセンスを、このBlogに転用したらええんじゃないかと最近気づきました。*1
以下はその内容を加筆修正したものです。
* * *

毎年恒例ですが、年度のはじめに、医療法人としての方針説明会をしました。
その時に「職員はしっかり勉強して下さい」といいました。
変化の大きく先の読めない時代(VUCA)、時代に適応するためには、新たな情報をすばやく取り入れ、実践しなければいけないから。
おりしも「働き方改革」で、「同一労働・同一賃金」もじきに始まる。
これは、成長しないと給料は増えない仕組み、といってしまっていい。
同じ仕事をコツコツと20年、30年続けていて、定期昇給できる時代は終わりました。

我が法人のやり方が気に食わなくて辞めても、どこに就職しても、日本中がそういう仕組みになる。
ちなみに日本以外では、はじめからこうです。

* * *

だから、勉強をしなきゃいけない。とにかく。
では何を勉強したらいいのか?

そこは、ある程度ガイドを指し示しますが、自分の特性やキャリアに照らし合わせて考えればいいと思う。
それを自分で選べるのが学校とは違う社会人の面白いところです。
どういう道を歩むのかは、自分で選べる。それに制限時間もない。

専門職としてのスキルアップは当然専門職として必要です。
ただ、それに専念して追求するのは片手落ちでもある。一点集中突破で許されるのは一握りの一流のみでしょう。
自分の専門領域の周辺の理解を深めるという手もあります。周辺の知識を高め、連携をとりやすくする人間も、組織人としては重宝されます。

また、社会人として、つまり一人の大人として必要な知識・スキルもあります。
そんな数々の技能のなかで、リーダーシップについての話をします。

リーダーシップは関係性

「リーダーシップ」というと、統率力のような才能をさすと思いがちです。
リーダーシップに優れた人が、その人の能力で統率し、組織をまとめる。
古いモデルではこう考えられていましたが、こういう考え方は、あまり正しくないようです。
最近読んだ本の中で印象的だったのですが、「リーダーシップ」は個人の属性ではなく、ある種の関係性をさす言葉、だそうです。

例をあげてみると、例えば、パニック映画、「ポセイドン・アドベンチャー」とか「ウォーキング・デッド」みたいなものを考えてみるといい。
5、6人が集団で何かから逃げてる、みたいな状況。

もともと他人の数人が固まって行動すると、自然にグループが形成されます。
こういう時に、映画のシナリオだと、例えば、最初は、会社の社長とか、将軍とか、社会的な肩書きが上の人がリーダーになったりしがちです。
しかし、それがうまくいかない。
別に肩書きもないけど、こういう常識の通用しない場面で冷静な判断力であったり観察力のある人がなんとなーくリーダーっぽい感じになる。
そして「俺はこいつを支持する」とか言う人も現れたりしてね。
グループの中でリーダーに推挙される場面、見たことないですか?
2時間の映画だったら、前半1時間くらいでこうしたチーム・ビルディングがなされ、残りの時間で、反撃、そして勝利、となるわけです。
こういう映画のシナリオを見れば、リーダーシップが関係性によるものである、ということがなんとなくわかるかもしれません。

トップとしての行動だけがリーダーシップではありません。支える人間にもリーダーシップが必要です。
要するに利己的な発言や行動ではなく、グループの目的を理解し、発言や行動を行う。
そしてグループの目的にのっとって各人の行動を調整する能力が、広い意味でのリーダーシップ・マインドといえるでしょう。

最近Twitter医クラで、「医学部の部活なんて何の役にも立たない」みたいな発言がバズったりしました。
学校の部活のような経験が、もしなんらかの役にたつとすれば、集団行動の中で醸成されるリーダーシップ・マインドを経験できることだと思います。別に部長・キャプテンでなくても、組織を統率する経験、もしくは統率される経験は、チーム・ビルディングという点では役に立つとは思う。
無駄ではない。
問題は、そこから学べるかどうか。*2
あと、学校の部活だけが、これを経験できる場でもないと思います。

* * *

いささか、話がそれました。
つまり「リーダーじゃないからリーダーシップはいらない」と考えてほしくないんです。
全体のことを考えるのは上に立つ一握りの人間だけ。下の人間は自分のことだけ考えていればいい。
それでは組織はうまく回りません。

もちろん、上に立つ一人の人間だけに裁量権がある状態では、下の立場の人たちはリーダーシップを発揮できません。
リーダーシップは、上に立つ能力ではなく、個人の目標と組織の目標を調整できる能力です。

ここで注意していただきたいののは、組織の上位層の人間が上に立つ理由が、権力欲とか自己顕示欲だったりすると、リーダーシップは発揮されないことです。なぜならそういう考え方は、個人の目的を集団の目的に優先させることそのものだから。
上がそれでは、皆利己的に振る舞うしかありません。
こうなると、組織のチーム力は存続の危機にさらされてしまいます。

また旧来の「リーダー=偉い」という風潮もあんまりよくないなと思っています。
サーバント・リーダーという、権力を振りかざして命令を行うのではなく、よく対話を行い、方針を決めるやり方が、最近は脚光を浴びています。
ま、これって、旧来の、日本的な「和をもって貴しとなす」の世界に近いんですけれどもね。

多くの医療機関や組織では、医師・看護師・コメディカルなど専門職たる職種の人たちは、専門職としての仕事が好きすぎて、組織の中での管理職を非常にいやがります。下っぱの方が気楽に働けますからね。
みな、リーダーシップには無頓着であろうとしますが、最近の医療は人材集約型産業であり、チーム医療です。
もう一度「リーダーシップ・マインド」というものを考え直してみたらいかがでしょうか?

*その他のBlogの更新:

*1:ちなみに文字起こしした朝礼の内容は回覧される会報にも掲載されますが、文字起こしした後の文章校正は僕がやっています。理事長の職掌ではないと思いますが、意図を正しく、口語から文語に直すのには一定のスキルが必要だと思う。

*2:ちなみに私は医学部時代医学部の部活には属していませんでしたけれども