なんか剣呑なニュースが飛び込んできたぞ。
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「就職氷河期世代」は、すなわち僕らの世代だ。
私は幸い医学部、つまり資格取得できる学部だったため、幸運にもあまり関係なかった。
が、そうでない学部の同級生たちは就職活動で苦杯をなめていた。
90年代から21世紀にかけて、日本経済は大きく地殻変動を繰り返した(地盤沈下ともいうが)。
日本の企業もその地殻変動による微震や激震の影響を大なり小なり受けていた。
バブル崩壊後、その地殻変動の第一波が、就職氷河期という形であらわれたのだと思う。
企業はついぞ経験のしたことがない地殻変動に動揺し、身を固くし、既存の職員を守るために、新参者に門戸を閉ざした。
その後、地殻変動がずっと続くことがわかっていれば、企業もあんな行動をとらなかったかもしれない。
が、あくまであの時は「日本経済は一時的に冷え込んだだけだ」と解釈されていた。
結果的に、本来もっとも人口が多く層が厚くなるはずの我々の年代の多くは、正職員への道を阻まれた。
まだ「企業に属することが社会に属する」と当たり前に受け止められていた時代。
今ほど、多様性が認められていなかった時代、それはどれほどキツいことだっただろう。
新卒で就職するしないで、運不運の明暗がはっきりわかれたわけでもない。
就職した人間も、様々な目にあった。
新卒で「幸運にも就職できた」企業も激震に見舞われることもある。
会社が船のようなものだとすれば、新参者の僕らは、船に余裕がなくなれば、一番に放り出される存在だった。
僕の大学の同級生で文系だったものは、新卒から同じ企業に勤め続けている者は少ない。
みな、地殻変動をひょいひょいとやりすごして、今に至っている。
あるものは、直下型地震の影響をうけ、吹き飛ばされ、あるものは地割れに呑まれていなくなった。
それは、等しく全ての年代の日本人に起こったことだが、我々はたまたま生活基盤の脆弱な時期にその影響をまともに食らったということになる。
* * *
世代ごとまとめて「人生再設計第一世代」と呼称されるのも、腹立たしいことだよな。
大方間違ってはいない事実も、腹立たしさに輪をかける。
政府にしてみれば「おまえらえらい目にあっているんやから、助けてやろうやないか」という善意から発せられたものではあるが、
これって、例えば未婚の30代女子に「いき遅れ世代」とかいうのと同じくらい、あかんやつですよ!?
ほんとにもー。
* * *
このニュースをうけて、人気はてなBlogger フミコフミオ氏も言及している。
奇しくも、氏も私とほぼ同い年だ。
delete-all.hatenablog.com
私も氏の考えと同じく、自分は今なんとか生き残れているのは、能力ではなく、運の要素にすぎないと思う。
私などは、資格職であること、実家の家業があったりして*1、仕事には恵まれて今に至っているが、自分が今安泰なのは、自分の実力というわけではなく、偶然だという感が強い。
いうなれば、迫撃砲の飛びかう戦場で生き残るのは、実力ではない。
実力は関係ない。
たまたま僕は直撃弾を受けなかった。
それだけだ。
些細なことで明暗がわかれただけなのだ*2。
我々の世代は、日本という国の構造的転換点において、なんの武器も持たず放り出された感がある。
数も多かったし、その分大事にもされなかったという恨みもある。
人数が増えれば、その分人権は薄まる。
僕らは自己決定のできない初年兵時代に負け戦の波頭で損耗させられた世代だし、敗兵なので経験の割には実力はついていない。そういう意味も割を食ってしまった。
しかも僕らの世代の前後から、年功序列制度は完全に崩壊した。
初年兵の時代にがんばった「丁稚奉公」にで貯めたポイントには、意味がなくなってしまった。
今ではそれが当たり前で、寿司屋で追い回し修行をするなんてバカのやること、という考えにも理解が示されていたが、我々が新卒者の頃は、そんなことをいっていたら、下駄で殴り飛ばされた。*3
新卒の頃は奴隷労働をさせられ、中堅になったら「新卒を大事に」なんて言われ、中堅になっても雑用をさせられている理不尽!
我々の世代の壮大な失敗、死屍累々の現状を参考に、数年後の学年からは、少しカリキュラムなども、現実に即したものに変わっていったと思う。それはいいことで日本の進歩だとは思う。
が、手当てされずそのままの同級生たちが、年功序列の消えた世界で、そういう若い世代とやりあって押し負けている。
なんという理不尽!
* * *
そんな中、我々に勝算の薄い戦場に行けと命じた、少し上の世代が、
「おまいらは使えない世代で、ろくに就職もできていないやつもいっぱいいるから、政府がなんか、対策を考えてやるよ」
なんて、言ってくる。
反面、大企業では「おまいら生産性も低いし、終身雇用の時代じゃないからね、これからは実力主義だからね」
なんつって、45歳以上をターゲットに、早期退職の嵐である。
旧来の日本的な組織で最前線で頑張ってきた30代、40代は、詰め腹を切らされて、通用しなくなり企業から放り出される。
これでは、あんまりだ。
あんまりだと思う。
でも、僕たちの世代は、負けなれている。
怒りなれていない。
後退戦・撤退戦を戦うことになれきっているからだ。
だから、きっと、寂しく笑うだけなんだろうな。
多分、やらなければいけないのは、われわれの世代のうまくいかなかった人生を再設計することではなく、
日本の政治と経済の戦略の再設計だと思う。
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大江千里は、前作も含めてオススメです。あとは「リトル・ピープルの時代」ですかね。
これも『ゼロ年代の想像力』でもいいんですが。