半熟ドクターのブログ

旧テキストサイトの化石。研修医だった半熟ドクターは、気がつくと経営者になっていました

家族葬もよしあし

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ホテルニューオークラ玄関口のオーナメント。新春の梅。

1月はインフル、インフル、またインフル…という趣でしたが、だいぶ落ち着いてきました。
なんとか乗り切ったように思いますが、手洗いのしすぎで、肌がガッサガサです。もう限界*1

* * *

長年の患者さん。患者さんは70代で、ややこしい病気も抱えているけど、まあよくしゃべる明るい方。
月に一度の外来で「なんかかわったことありました?」と当たり障りのない切り口でお話しを切り出すわけ。

「長年来の大親友がこの前亡くなっちゃったのよ…」

と少ししょんぼりしていらっしゃった。

「旦那が亡くなっても泣かなかったけど、今回ばかりは大泣きしたわね。
 もちろん葬式も行きたかったんだけど、最近家族葬が増えたじゃない?親友もいい年だから家族も、そりゃ家族葬でこぢんまりとやるわよね。
 でも、あたしにとっては、そこはちょっと複雑だったなー。葬式で死に顔みておくべきだったなーって」

* * *

確かにここ最近はほとんどが「家族葬」になった。気がついたら主流が家族葬になっている。
多死社会でもあるし、葬式も頻繁になっている。
定年退職してずいぶん時間が経っていれば交友関係というのも限られてくる。
要介護状態になって数年も経てば、確かに、友達が呼ばれて来る、というのも親族にしてみれば、ちょっと想像しにくい。

なにしろ、葬式は高い。
なんやかんやいって基本料金もするし、そこから「社会的な…」とかちょっと油断すると*2、どんどん費用がかさんでしまう。
どれだけ来るかわからないのに大きなスペースを用意して、結果誰も来なかったら、その人の人生そのものを否定された気さえするし*3、逆は逆で困る。親族の不見識を責められるだろう。

その点家族葬なら参列する人数もよめるしコストが抑えられるし、来客の対応とかそういうのにかかずらわなくても済む。
家族にしてはずいぶん楽だとは思う。

「香典辞退」も増えた。
これも端的にいえば返礼の人的コストを下げるためだ。
上記のように家族葬にして葬儀費用負担が現実的な値段におさまれば、現実的だ。

* * *

こうした冠婚葬祭のルールって、誰が主導しているわけでもなく、いつのまにか変化していることが多い。
考えてみると、すべて人間が日常的に触れるわけではないので、業界の外にいると、変化には気づかない*4
国際医療福祉大学高橋泰が(高橋泰先生については以前に書いたことがあります)、「最近胃瘻をしてくれという家族が減った」という話をよくされるのですが、
そのときに引き合いに出すのは結婚式の「仲人制度」の話。
hanjukudoctor.hatenablog.com

確かに、僕よりも前の世代であれば、結婚するのに仲人というものを立てるのが当たり前だった。でも今は殆どしなくなっている。
別に、そういう仲人制度に反対するキャンペーンとか社会運動とか、行政指導などがあったわけではないけど、気がついたら皆がしなくなっていた。

家族葬のトレンドも、これに近いと思う。
その他でいうと、お歳暮・お中元も僕らの世代以下では、基本的には廃れつつある。
だいたい、2000年の小泉改革の頃以来、そういうのに使える可処分所得はどんどん削られているのが実状だし。
年賀状も、そろそろやばい。年賀状2.0みたいなものがあると、いいな。
Facebookみたいに、全員がアカウントをもっていて、送る、というか、一年ごとに年賀のページを更新すればいいんだと思う。
それぞれが、年賀状のリストみたいなリンクリストをもっている。そういうの誰かが作っていれば、ひょっとしたら日本もFacebookとタメ張るSNSを作り出すことができたのかもしれない。

同様にSNS時代に、人の死・葬儀、エンディングに関する問題はどうにかできないのか。
多分なんらかのビジネスチャンスがあり、誰かがモデル化するのだと思う。

* * *

患者さんの話に戻る。
やっぱりエンディングノートに、葬式で呼んでほしい人のリストとか、書いておいたらいいんじゃないの?という話になった。

「そうねー。そうするわ」

とお帰りになった。

が、帰ったあとアシスタントが、
「でも、大親友というのも、主観的なものですからね……
 友人と思っているのは自分ばかりで、勝手に親友と思っていてて、リストに名前がないのもショックじゃないですかね…」
とぽつりとつぶやいた。

おい! 君! 何があったん?!

(※内容には一部フェイクが混じっています)

*1:とか言っていたら、インフルBが出た!

*2:旧来の葬祭会社は、このあたりの褒め殺しで料金を自動的にのせていく営業トークに、真髄があった

*3:なんか自己評価が過大、みたいな気になってしまうよね

*4:まあ、医療もそういう閉鎖業界の最たるものだ。てへ。