一年の始めっぽい話をしましょうか。
アカレンジャー
現在の自分は、親の跡をついで創業40年目の医療法人の二代目理事長です。
理事長としては3年目。院長になって5年目です。
それまでは基幹病院で勤務医でしたが、正直にいって、実家に帰り、トップとして経営・診療をする、ということについては、躊躇していました。
39歳まで戻るのが遅れたのはそのためです。
なぜなら、僕は「アカレンジャー」じゃないから。
* * *
「アカレンジャー」は戦隊モノヒーロー番組の元祖、ゴレンジャーのリーダーですね。
僕、アカレンジャー(端的にいってリーダー的な資質の記号です)むいてないんです。
性格的にも、能力的にも。
アカレンジャーのように、皆を叱咤激励して、大きな声を出して鼓舞して、先頭を切って斬り込んで、仲間を思いやって、ということを、臆面もなくやりきることができない。恥ずかしい。正直バカなんじゃないか、とさえ思ってしまう。
そう、僕はどちらかというと、個人プレイを好む、シニカルな青か緑なんです。
軍人で言えば、将軍ではなく、将軍のそばに侍って悪巧みをする参謀や軍師。
体育会系でもなく、人を率いた経験もありません。
多くの人に慕われた経験もありません(むしろ毒舌めいた直言をするために、好き嫌いわかれるタイプ)。
そういう自己分析は出来ていたので、どうしても実家に帰ってトップとして振る舞うのが、いやだった。
こんな徳のない人間が、トップになったってあかんやろ。
と思ってました。
アカレンジャーとして振る舞うために
そうはいっても、僕以外にこの組織をハンドリングできそうな人はいなかった。*1
また、昔から馴染みの職員が、待ってくれているのも知っており、実家に戻ったわけです。
内科医としては、基幹病院で仕事をしてましたし、プライマリも大丈夫。
数こなすのも苦手じゃない。マルチタスク*2もかなり得意な方で、そこのギアチェンジは問題なかった。
ただ、リーダーとして振る舞う自信はありませんでした*3。
努力したこと。
とはいえ、そうもいってられない。
そこで趣味の世界でちょっと工夫しました。
長年ジャズトロンボーンというのをやっていて、セミプロです。
お店でBGM演奏とか、プロの混じるライブにサイドメンとして参加できる程度のレベルです。
日本のどこのお店でもジャムセッションで臆せず飛び入り参加はできる*4。
でもその能力は、いわゆる個人技です。医師の能力と同じく。
その頃の音楽活動は呼ばれてライブに参加するとか、いわゆる「客演」が主でした。
もちろんMCとかもしません。
* * *
それを、思いきって、バンドを作って*5リーダーになりました。
MCをしたり、バンドの運営をしたり、お店にライブのブッキングをしたり、集客をしたり。
自分がリーダーで、全責任を負うバンドをやりました。
もちろん、やりたい音楽を実現させること、が大前提です。
が、この行動の裏には組織の長として必要なことを、バンド運営でシミュレーションできないか、という考えもありました。
自分が汗をかいて自分が牽引するバンドを作ったわけです。
やっぱりバンドって色々難しくて、メンバーは僕には過分なほど能力のある人揃いでしたが、皆が同じ明日を目指しているわけではない。
やめない程度に牽引し、やりたくなるような選曲やアレンジをし、顔色をうかがいながら(あ、いい意味ですよ)やっていきました。
お陰様で、わりと好評を博し、大きな舞台にでても映えるバンドになりました。
また、ジャズ・ボーカルというのも経験してみたりしました。
これも、一つの「アカレンジャー」の練習でした。
jazz-zammai.hatenablog.jp
に少し書いています。
気づいたこと
hanjukudoctor.hatenablog.com
にも少し書きましたが、去年透析クリニックの先生が急逝されました。バンドはその時から凍結したままで今に至ります。
病院と透析クリニックは、正直いって、戦線崩壊の危機だったと思います。
私も半端なく動きつづけ、皆を叱咤激励し、自分も診療しまくり、なんとか持ちこたえましたが、そのときの自分は、少しアカレンジャーっぽくなれたんじゃないかと思います。
* * *
バンド運営も軌道に乗ったあと、気づいたことがありました。
当初は自分のやりたい音楽の方向に向けて、ディレクション=舵取りをする意識がかちすぎていたように思います。
どうやって、みんなに自分の言うことを聞かせようか、という風にばかり考えていた。
ただ、バンドって、全員が同じ方向を向いてはいないのですが、それがいけないんじゃない。
多少の思惑の違いはともかく、個人の勢いを殺して意見を統一するよりも、個人の勢いはできるだけ活かし、方向性がすこーしずれてもあまり気にせず、メンバーに感謝してたほうが、うまくいくことに気づきました。
大きな組織になっても同じで、すべての人間が完全に同じ方向を向いていなくてもいい。
多少多様性があり、ガヤガヤしても、いや、している方が組織の底力になるんじゃないか、ということです。
メンバーひとりひとりの資質なりに頑張っているのなら、否定せずに褒めて、そして感謝した方が、うまくいく。
何より楽しい。
やっぱり僕はナチュラル・ボーンのアカレンジャーじゃない。
もしそうなら、逡巡なくこう考えられるはずです。
僕はアオレンジャー的な狭量さが抜けず、意識しないと、そう振る舞えない。*6
最後に
未だにアカレンジャーという立ち位置は慣れません。
経営者という人たちの集まりにノコノコと顔を出すことも慣れません。
僕はゴルフもしないし、酒も飲まない。
タバコの煙る夜のバーで方向性の見えない話をしているくらいなら「帰って本でも読みたいな」とか思ってしまう人間です。
あくまでアカレンジャーは仮の姿。
しかしその下に着ている服は一体何色なのか。
最近はアカレンジャーのレンジャー服も体に馴染んできたので、今自分が何色レンジャーなのか、わからない昨今です。
でもまあ僕なりのアカレンジャーを演じ続けよう。
最近はそう思っています。
職員のみんな、ありがとう。
今年もがんばろう。